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「肩こったぁ…」
腕を回せば、1日動かなかったせいで関節がバキバキだ。
途中目に止まった精神科の看護師に声をかけて、秋本さんの容態を聞く。
「彼、どうですか?」
「安定しています。
ご本人ももう、死ぬ気はないそうで…夕方には一般病棟へ移れるそうです」
「そっか、よかった…。
お時間とらせてごめんね、ありがとう」
「いえ。
あ…香坂先生はもう大丈夫なんですか?」
振り向きざまに大丈夫!と声をあげて、腕で大きく丸を作ると、彼女は笑ってお辞儀をしてくれた。
さてと、医局に戻りますか。
「あっ、A先生!」
はいはい今度は何でございましょー。
事務作業してても呼び止められ、歩けばほかの科の先生や看護師に呼び止められ…朝からよく呼ばれる日だなぁ。
随分と高い、女の子の声だったような…あ。
ソファに座った奏ちゃんと、その前に立つ藍沢先生の姿を発見した。
彼女の細腕には、私が今朝までつけていた点滴が刺さっている。
「具合悪くなっちゃったの?」
「うん、頭痛くなっちゃった」
駆け寄って聞くと、てへ、と笑う。
新海先生も大変だなぁ、とこの頃よく思う。
「……ねぇ、A先生」
「なぁに?」
失礼して隣に腰を下ろして目線を合わせる。
「ピアノを弾かない生活って、どんなんだと思う?」
そう聞かれて思わず、顔を上げて耕作を見た。
その目が、俺にはわからないと言っている。
そうだなぁ…。
「奏ちゃんにとって、ピアノは命と等しいものでしょ?
例えば私にとって、命と等しいものは、医者としての私の存在」
声のトーンが落ちた私を心配したのか、奏ちゃんがじっと私を見つめて、その手で私の手を握ってくる。
耕作は、何も言わない。
「私から医者を取っちゃったら────何も残らなくなっちゃう、かな」
「私も…?」
「ううん、それは違うよ」
だって、と彼女の手を両側から包み込む。
「奏ちゃんの世界は、まだまだいろんなことがあなたを待ってるから。
だから…怖がらないで、周りに目を向けてみて」
それは、大変なことだ。
私は、怖くてそれができなかったけれど。
彼女には────私のようになって欲しくない。
「……A先生」
「うん?」
「私…生きていけるかな」
ちょうどそのとき、耕作のPHS端末が着信を告げた。
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時