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時刻は9時過ぎ。
「今日も1日、よろしくお願いします」
「お願いします」
私は恵ちゃんの左隣で軽くお辞儀をした後、ぱきぱきと肩の関節を鳴らした。
立ち上がっていた彼女が、くすりと笑う。
「それ、7年前から変わんないね」
「これしないとスイッチ入らないんだよねぇ」
いつしか私は、“医者”としてのスイッチを入れる時に、こんなふうに肩の関節を鳴らすのが癖になっていた。
pipipi,pipipi,pipipi…
着信…私のじゃないや。
「はい」
音の発信源を追うと、テーブルを挟んで向かいに座っていた耕作と目が合う。
え、なに、私なにかした…?
彼は手短に話して通話を切ると、歩きながら着いてくるように手招きする。
「天野さんのところだ。
一緒に来てくれ」
「あ…うん、わかった」
いつでも出動できるように、救命バッグは準備してるし大丈夫。
扉の前で待ってくれている彼の元に、私は駆け足で向かった。
HCUを抜けてエレベーターに乗り、彼女の病室へ向かう。
私に歩幅を合わせてくれているのが、どこか悲しくて嬉しく感じるのは、どうしてなのかな。
プレイルームに近づくにつれて、踊るようなピアノの旋律が耳に入る。
「……すごいね」
「ああ」
思わず本音でぽつりと呟いたそれに、同じようにドアの前で止まった耕作は頷いて、ドアノブに手をかけた。
「────何でここにいるんだ」
「いい曲でしょ。
藍沢先生の即興曲、怒り」
耕作は首を振ってる。
ほへー。
即興縫合ならできるけど、こんなの手がいくつあっても足りないや…。
耕作より1歩離れたところで目を瞬かせていると、制服姿の天野さん────奏ちゃんは、こちらを振り返ってそれは嬉しそうに笑った。
「A先生、おはよ!
先生の曲も作ってもいい?」
「おはよう。
────また今度、聞かせて欲しいかな」
ああなるほど、耕作が私を連れてきた理由がわかった。
この部屋は、防音対策をしていない。
「今、新海が説明しているだろう。
ちゃんと聞きに行け、3.5センチは危険だ。
────もうもたない」
こればっかりは、専門でない私が口出しするわけにはいかなくて、じっと奏ちゃんの後ろ姿を見つめている。
彼女は外から聞こえてくるモニターのひとつの音を弾きながら、口を開いた。
「やっぱり、手術しないと駄目なのかな」
その細い指が、途端に美しい旋律を紡ぎ出す。
心を震わせる、軽やかな音色だった。
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時