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橘先生とともに水鉄砲を分け与えていくAの顔は、笑顔が弾けていた。
心の底から笑ってるような、そんな顔。
救命にいたんじゃ絶対に見れない顔だ。
そういえば、彼女がなぜ救命に入ることにしたのか、その原点は何も知らない。
あの子は、滅多に過去を語らない。
第一印象は藍沢と同じで、とっつきにくい医療バカ。
でもそれもすっかり昔のことで────。
「……あんな顔して笑えるんだ」
いつか、話してくれることを信じてる。
躊躇わなくていい、怖がらなくていい。
だってもう、チームなんだからさ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(香坂)
「すまんな、タオル使ってくれ」
「いえいえ、久々に楽しかったですよ。
ありがとうございます。
優輔くんお待たせ!射的やろっか」
「うん!」
はい、と緑色の水鉄砲を手渡して、橘先生が持ってきたペットボトルに向かって引き金を引く優輔君の後ろで、私は髪を拭きながらその様子を眺めている。
「香坂先生、虹出るかな?」
「今日は雲も少ないし、頑張れば出るかもね?」
「ほんと?」
三井先生と微笑み合いながら促した。
「やってみよう」
「うん!」
連続で放たれる水しぶき、ゆらめく陽炎。
子どもたちのはしゃぐ声が、急に遠くなる。
ああ、あの日も7月にしてはやけに暑い日だったっけ…。
「……香坂、もう何年になる?」
「11年、ですかね。
高校3年の、夏休みに入る前でしたから…」
どこを見るわけでもなく、ただ、遠くを見つめていた。
水面に反射した太陽光がやけに眩しくて、目をすがめる。
「そんなに経つのか……、いやはや、こんなに立派になった君を自慢できなくて残念だよ」
「……脳外科医として父には、循環器…いえ、小児科医として母には、まだまだ遠く及びません」
ゆるく首を横に振って、私は静かに目を伏せる。
「そうか…。
くれぐれも、この前のような無理はしないでくれよ」
「………ここではい、と言ってしまったら、嘘になりますね、どうしましょうか」
「香坂、私も口出しする権利はあるわよね?」
「あーっ、ごめんなさいごめんなさい三井先生、だから頭の傷ぐりぐりしないで…!」
すいと綺麗な手が伸びるのに気づかず、そのまま前頭部の傷に親指を宛てがわれる。
みしっと、頭蓋骨がいやな音を立てた。
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彩架(プロフ) - 3話の「始め」ではなく「初め」ではないですか? (2018年10月13日 23時) (レス) id: d02e226a01 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 話に話を咲かせる、ではなく、話に花を咲かせる、ではありませんか? -14cm-です (2018年9月28日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - すいません、先程の書き込み、訂正させてください。「ステンド」ではなく、「ステント」ではありませんか? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生の考えてること、何個目かはわかりませんが…、「それは」の後の「、」が「,」になってます (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - -18cm-の京先生が一番最初に考えてること、ステントグラフトになっています。ステンド、ではないです? (2018年9月21日 17時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月27日 12時