8 ページ10
「…あっ」
驚いたように言葉が止まってしまった女性────白石先生に、いいよ、というように私はひとつ頷いた。
「とくに高位の後腹膜による膵損傷、腎損傷、腰椎骨折を伴うもの……だと、思います」
「すごい、全部言われちゃった」
────あーあ、せっかく先輩、カッコよく決めたかったのになぁ…。
「よし。
胸部と骨盤のポータブル撮って異常がなければオペだな。
香坂、…それにおまえとおまえ、このあとのオペに入れ」
「はい」
「はい。
オペ室と麻酔科医に連絡取りますね」
藍沢先生と白石先生のあとに返事をしてからそう付け足せば、それはいいと返される。
緋山先生にはご家族への連絡、そして藤川先生に、私が申し出たオペ室と麻酔科医への連絡係が指示された。
「連絡…」
この数分で生まれた実力の差に、あからさまに悔しそうに唇を噛む緋山先生と、肩を落としてため息をつく藤川先生。
何かフォローしたほうが、と私が動く前に、黒田先生が厳しい口調で言葉を並べる。
「ドクターヘリではひとつのミスも許されない。
限られた機材、限られた時間で、瀕死の患者を救い出す。
ミスは即、患者の死だ────、その重圧に耐えられる精神力を持ったものと、その腕を持ったものだけがヘリに乗る資格がある」
そこで一度言葉を切り、黒田先生が書類を挟んでいたバインダーで私の頭をぽん、と軽く叩く。
途端、黒田先生に向けられていた4人の視線が一斉に私へと注がれて────居心地はまぁ良くない。
「そういや、こいつの自己紹介がまだだったな。
お前たちと同じフェローシップ、最後のひとり────香坂Aだ」
「…香坂です、よろしくね」
緊迫した状況の中で面白い自己紹介などできるはずもなく、とりあえず控えめに微笑んで会釈してみたものの、同じように頭を下げてくれたのは白石先生だけだった。
「おまえら全員ライバルだ。
────能力のないものから振り落とされる。
いいな?」
────ここは、そんな生優しい環境じゃない。
彼らはそのことを日々、否応にも身をもって知っていくのだろう。
命のはかなさに。
奇跡が、どれほど遠いものかということに。
黒田先生の出て行った初療室に、ふたたび沈黙が落ちる。
三井先生とともに後処理とオペの準備を進めていた私は、気がつかない。
藍沢先生が唯一、私を見て、好戦的な笑みを浮かべていたことに────。
1592人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほち(プロフ) - 続きとても気になります……!更新待ってます…! (2月14日 9時) (レス) id: 9d8af713d5 (このIDを非表示/違反報告)
レモン - 更新待ってます!頑張ってください! (2020年1月18日 10時) (レス) id: 572aeb701d (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月24日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
音夢(プロフ) - 続きが…気になります!! (2019年6月21日 2時) (レス) id: 11609052e1 (このIDを非表示/違反報告)
凛 - シリーズとても面白くて、1日で読み終えてしまいました!この小説でのコードブルーがとても好きになりました!ちなみに、劇場版は書かれたりするんでしょうか?お忙しいと思いますが、作成されたら飛んで読みに来ます!頑張ってください! (2018年8月1日 18時) (レス) id: 132fe7823f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ayanel | 作成日時:2018年4月4日 15時