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瞬く間に喉は切開のため消毒され、血が飛散するのを防ぐため、ドレープがかけられる。
「すみません、メス────」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(香坂)
「────メスください」
よく通る、低い声が鼓膜を震わせる。
私より先に滑り込むように処置台に近づいた男性は指で切開位置を決めると、すっと横に手を差し出した。
思わず、私だけではなく指導医の先生方の視線が彼に集中する。
私は驚きに満ちた顔で、ほかは品定めをするような目つきで、その鮮やかに翻る手元を見ていた。
────へぇ…。
私がやろうとしていたことと全く同じその処置が、目の前で繰り広げられていく。
広げられた隙間から呼吸器の管が引っかかることなく入れられる────場所を移動した黒田先生の目つきが、興味深いものを見たように満足げに光った。
ひとつもミスをすることなく処置を終えた男性が後ろを振り返ったとき、私にはちょうど、胸元につけられたIDが目に入る。
────藍沢、耕作…。
視線を感じて顔を上げれば────そこには一種の余裕にも似た表情があって、思わず眉間に皺が寄るのを感じた。
あぁ。
なかなかやる人だと思ったが、前言撤回だ。
「────香坂」
「はい?」
手持ち無沙汰になってしまって、FFPはまだ大丈夫かなと考えていたところに、三井先生からのお呼びがかかる。
差し出されたのは、FASTのためのプローブ。
「やってみて」
正面から驚きが滲んだ視線が送られる────若干気になりつつも、プローブを手にしてタオルの中に手を入れる。
「あなたが当てたのは側面。
けれど────」
────私が入れたのは、背中側だ。
モニターに映し出された影に、丁寧に言葉を紡いでいく。
「脾臓周囲に浮体貯留あります。
もう少しで脾臓浮いてくると思います」
「合格。
背中からプローブ当てないと、描出しにくい。
……もういいから」
ぴしゃりと言われた緋山先生がもう一度私を見たのがわかったけれど、振り向きはしなかった。
「FASTで認識しにくい出血部位は」
唐突な黒田先生の質問に、沈黙が落ちる初療室。
────名指しじゃないし、これは答えていいやつ…?
「…────後腹膜の出血」
と、私の声ともうひとりの声が、一言一句違わず綺麗に重なって初療室へと木霊した。
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ほち(プロフ) - 続きとても気になります……!更新待ってます…! (2月14日 9時) (レス) id: 9d8af713d5 (このIDを非表示/違反報告)
レモン - 更新待ってます!頑張ってください! (2020年1月18日 10時) (レス) id: 572aeb701d (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月24日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
音夢(プロフ) - 続きが…気になります!! (2019年6月21日 2時) (レス) id: 11609052e1 (このIDを非表示/違反報告)
凛 - シリーズとても面白くて、1日で読み終えてしまいました!この小説でのコードブルーがとても好きになりました!ちなみに、劇場版は書かれたりするんでしょうか?お忙しいと思いますが、作成されたら飛んで読みに来ます!頑張ってください! (2018年8月1日 18時) (レス) id: 132fe7823f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2018年4月4日 15時