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(藤川)
「右前腕の感染がコントロールできないね。
…もう少し早く言ってくれれば…」
青白く輝くX線写真に写るのは、細い橈骨と尺骨。
「────切断、か…」
その言葉に、自分の右手はちゃんと繋がっているのに、そこに痛みが走ったような気がして、思わず身震いした。
「君の見立ては?」
「か、彼女…、栗山さんはまだ15歳です。
なんとか…」
「温存は難しいよ。
それは、彼女も覚悟している」
「…え…?」
俺の言葉を最後まで聞かずに、森本先生はそう返した。
「────…もう、オペの同意書はもらってある」
それは、つまり。
自分の手がなくなることを、受け入れているということ。
「彼女…トリマーになるのが、夢だったそうだ」
昼間、ヘリが出ている間、ドクターヘリについて語ったときの、彼女のまだあどけなさの残る笑い方を覚えている。
“声でかいよ”
愛犬のマルちゃんが可愛いんだと、写真を見せながら無垢に笑って。
病と闘っているようになんて、まったく見えなくて。
“今日よりも…よくなる明日はないんだよ”
虚空を見つめて放った言葉が、ひどく心を締めつけた。
現実は、容赦なく襲いくる。
ヘリから降りてきた白石の表情を見て悟った。
CPA────心肺停止状態になりかけた患者を救ったのは、彼女ではなかったのだということに。
カンファレンス室に、沈黙が落ちる。
何も、言えなかった。
言葉が、思い浮かばなかった。
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(香坂)
膝の上に置いていた私の手に、そっと遠慮がちに美樹ちゃんの左手の指先が触れた。
いつもなら、他愛のない話をして、マルちゃんの写真を見せてくれて、可愛いねって笑うのに。
言葉が、胸の奥でぐちゃぐちゃに絡まって────あれ、私いままでどうやって彼女と話してたっけ。
「………ごめん」
口をついて出たのは、謝罪だった。
「…大丈夫。
自分がいちばん、わかってるから。
先生は、悪くないよ」
ぎゅ、と指先を掴まれる。
震えていたのは、どちらの手だろう。
「……それでも…」
夢を、希望を、ひかりを。
掴ませてあげられなくて、ごめんね────。
祈るように包み込んだ手は、自分のものより小さくて、あたたかかった。
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ほち(プロフ) - 続きとても気になります……!更新待ってます…! (2月14日 9時) (レス) id: 9d8af713d5 (このIDを非表示/違反報告)
レモン - 更新待ってます!頑張ってください! (2020年1月18日 10時) (レス) id: 572aeb701d (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月24日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
音夢(プロフ) - 続きが…気になります!! (2019年6月21日 2時) (レス) id: 11609052e1 (このIDを非表示/違反報告)
凛 - シリーズとても面白くて、1日で読み終えてしまいました!この小説でのコードブルーがとても好きになりました!ちなみに、劇場版は書かれたりするんでしょうか?お忙しいと思いますが、作成されたら飛んで読みに来ます!頑張ってください! (2018年8月1日 18時) (レス) id: 132fe7823f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2018年4月4日 15時