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(香坂)
安定してきたバイタルに息をつき、私は穏やかに眠る小さな患者の、まだほのかに赤い頬を撫でた。
「バイタル気をつけて。
何かあったらまた呼んで」
「ありがとうございます、香坂先生…！」
研修期間を終えたばかりの新人ナースが、深く頭を下げる。
そばにいたもう一人の看護師に肩を叩かれ、私は静かに病室を出た。
視界の隅に、飛び立っていく白い機体が入ったのは、病室に向かう前。
────さて。
彼女は、どこまでできるだろうか。
院内の時計をちらりと確認して、もうそろそろ戻ってくる頃だろうかと時間を逆算していたとき、向こう側からもう見慣れた顔がこちらに歩いてきた────藍沢先生だ。
どことなく居心地が悪いのは、気のせいではない。
慣れないのだ、彼のこの、探るような視線が。
「お疲れ」
「…ありがと」
「すぐに追いつく」
「……え？」
一瞬、何のことかわからなかった。
「スタートライン…譲ってもらわなくても、自分の力で並んでみせるよ」
それは────つまり、彼も私と同じく、実力だけでヘリに乗るつもりなのだ。
きゅっ、と床を靴が擦った。
私よりはるか高みから、何を考えているのか掴めないふたつの瞳が、静かに射抜いてくる。
言い表せない高揚感に、静かに唾を飲み込んだ。
「…負けないからね」
滅多と笑わない口元が、わずかに緩んで────そのことに内心驚いていたら、藍沢先生は私の横をすいと通り過ぎていく。
「ヘリ、もう戻ってくるだろ」
「…大丈夫かな、白石先生」
口をついて出たのは、初めてのフライトを経験しているであろう同僚の心配だった。
「……初フライト、どうだった？」
「…普通」
らしくないほどに緊張したあの日、あの瞬間。
広がってゆく赤黒い染み、まとわりつく鉄と汗の臭い、うんざりするほどに鳴り響くアラーム、心臓の鼓動を刻む音、吐き気がするほどの、死の予兆。
────あの、夏の日のような。
黙り込んですたすたと長い廊下を突っ切る私に、それ以上藍沢先生が何かを聞くことはなかった。
処置はできていた、何があったのかも覚えている。
ただ、情けないほどに怯えていた自分が、確かにそこにいたことは。
────紛れもない、事実だ。
あの日、私は────なり損ないの医者にすぎなかったのだから。
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ほち(プロフ) - 続きとても気になります……！更新待ってます…！ (2月14日 9時) (
レス) id: 9d8af713d5 (このIDを非表示/違反報告)
レモン - 更新待ってます！頑張ってください！ (2020年1月18日 10時) (レス) id: 572aeb701d (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか？ (2019年8月24日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
音夢(プロフ) - 続きが…気になります！！ (2019年6月21日 2時) (レス) id: 11609052e1 (このIDを非表示/違反報告)
凛 - シリーズとても面白くて、1日で読み終えてしまいました！この小説でのコードブルーがとても好きになりました！ちなみに、劇場版は書かれたりするんでしょうか？お忙しいと思いますが、作成されたら飛んで読みに来ます！頑張ってください！ (2018年8月1日 18時) (レス) id: 132fe7823f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ayanel
| 作成日時：2018年4月4日 15時
