I'm home. -ただいま。- ページ40
12月某日。
すっかり高くなった冬の、冴えざえと凍てつく空を見上げて息を吐く。
その息は雲のように白く、あっという間に消えて見えなくなる。
「……さむ」
絞り出すように紡いだ声をマフラーの中にうずめて、歩いていく。
その足取りは、ひどくゆっくりだ。
高い木々に囲まれた公園のようなそこは────墓地。
目的の場所になんとか到着し、またひとつ息を吐いてから、ゆっくりとギプスの取れた足を折る。
「…よっこいしょ、と。
はぁ……ごめんね、来るの遅くなって」
そっと微笑んだ先にあるのは、もう長い間来れていなかった墓。
とっくに命日は過ぎてしまったけれど、休みをなんとか取ってようやく来ることができた。
秋なら菊の花でも持ってこれたのだが、如何せん季節遅れである。
手を合わせていたそのとき、一陣の強い風が吹き抜けた。
白いマフラーから細い髪が、はらはらとこぼれ落ちる。
────薄茶の、髪が。
「……冷えるぞ」
「大丈夫、アメリカ仕込み舐めないで」
そう言った途端、小さなくしゃみを漏らした彼女に、後ろに控えていた男性は苦笑した。
「来年はちゃんと、夏に来れるかな」
「…休みが取れればな」
「うん」
するり、とのばした左手が愛おしげに墓石を撫でる。
その薬指に輝く────────ひとつのシルバーリング。
病み上がりの身体に、冬の寒さは堪える。
ゆっくりと立ち上がった小柄な女性の隣に並んで、男性────藍沢はじっと墓石を見つめた。
「────必ず、幸せにします」
「……照れる」
マフラーに鼻まで埋もれた彼女の目尻がきゅっと下がって、きっと口角は上がっているに違いない。
熟れた桃のように赤く染まった頬と耳を悟られまいと、また来るね、と心の中で呟いて、彼の後ろを通り抜けた。
けれど足のコンパスの差で、あっという間に追いつかれる。
冷えていた左手を掴まれて、コートのポケットの中に突っ込まれた。
「……風邪引いたらどうする気だ?」
「優秀なお医者さん達がいるから大丈夫です」
得意げに笑ってみせたその表情に、してやられたと軽く息を吐く。
墓地を抜け、午後からの出勤のために電車に乗る。
その前に。
「────A」
呼びかけて足を止めると、数歩先に行ってしまった彼女と手が解ける。
藍沢の揺れる瞳に気がついたのだろう、香坂Aは数回瞬きをして────その薄茶の瞳を細めた。
Epilogue. -Embrace the sky.-→←37
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ふみ(プロフ) - 一言、凄く感動しました。作品に忠実でありながらオリジナルを綺麗に上手く組み込んでて違和感なく読む事ができました。お忙しいとは思いますがファースト・セカンドシーズン、スペシャルや映画の方の作品も期待してます、こっそり、堂々と!無理せず更新お待ってます! (2018年8月15日 0時) (レス) id: fa7ef13cd4 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - あとうひとつ、ではなくてあともうひとつ、ではないですか?間違ってたらごめんなさい。28です (2018年8月7日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
葉月 - はじめまして!全部読ませてもらいました。少しわからないところもありました…最後死んでしまったのは悲しかったですが感動でした! (2018年7月29日 13時) (レス) id: 598db5caaa (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - こんばんは。お疲れ様でした。ひと作品ひと作品大好きです。途中から来れなくなり、昨日残りを一気に読みした。涙なしでは読めませんでした。ayanelさんの作品が本当に大好きです!終わってしまいましたが今後のseason1や番外編も楽しみです!更新頑張ってください。 (2017年11月21日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
Appppppppple - 最初から最後まで読み始めたら止まらなくて、すごく好きです!主人公の波乱展開や次々と起こっていく奇跡に思わず涙をこぼしながら読ませていただきました。耕作との恋愛もじれったいけど思いあってるのが伝わってきてとても素敵でした!これからも頑張って下さい! (2017年10月23日 18時) (レス) id: d7af8c4e34 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年9月20日 0時