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(藍沢)

いささか疲れたような面持ちでICUに降りてきたAを目に止めつつ、患者のカルテを見ていた。



「────藍沢。

…お、香坂もいたか、お前もちょっと来い」



そう言って彼女を手招きしたのは、同じく治療に当たっていた西条先生だった。



彼はAが、事故で記憶を失くしてしまっていることは知っている。



仕事に差し支えのないように、最低限の上司や関係者には橘先生から、彼女がいま置かれている状況を説明してあった。



「香坂、お前が数ヶ月前に辞退した、トロント大学のレジデントのこと、覚えてるか?」

「…先生からお話を頂いたことは覚えています」



Aの言葉に頷いた先生は、なら話は早いなと俺に向き直る。



「トロントには藍沢、お前を推薦することにした。

…辞退なんて、本気じゃないだろうな」



その言葉に、傍らに来ていたAがそろりと俺を見上げた。



薄茶の瞳が、不安げに揺らぐ。



トロントに行けない、もうひとつの理由。



────新海には、ああ言ったが…。



この瞳を、この声を、この姿を。



以前よりも儚さを帯びた、目の前の存在を。



そう簡単に手放せるはずなど、なかった。



選択のときが、迫っていた。



彼にも、同じように。



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(橘)

「心臓はいらない。

────移植は受けない」



一瞬、聞き間違いかと思った。



それほど現実味のない優輔の言葉に、どこにぶつければよいのか分からない感情がせりあがる。



「────いいか、移植すれば、ベッドから起き上がれるんだぞ。

お母さんと一緒に、外も歩けるんだ。

友達とも遊べるんだよ。

お前が大好きな香坂先生とだって、走り回ることだってできる」

「優輔、お願い。

移植を受けて?」



ずっと、楽しみにしていたことがあった。



担当医でもないのに、自分のことを気にかけてくれる香坂に、いつかきちんとお礼を言って、一緒に遊ぶんだと。



やっと、そのときが来るというのに。






「………ごめん。



────僕は、移植を受けない」






ここに来て、最後の壁が、奇跡の実現を阻んでいた。

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作品ジャンル:恋愛
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リラン(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます!読むたびに次をもとめてしまう!今後も期待してます!話は変わりますが、少年陰陽師読んだことありますか?何となく文が似ている所があってずっと気になっていたんです。急に質問すみません。もし知らないのであれば申し訳ないのですが… (2019年2月12日 12時) (レス) id: c050d878db (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 18、大大抵ではなく、大抵では? (2018年7月4日 20時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
鈴子 - コードブルー好きにはたまらないね\^-^/ (2017年10月14日 21時) (レス) id: bbbfeb8862 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - いつも更新楽しみにしています!更新される度に続きが気になって気になって!最終回、楽しみにしています!更新頑張ってください! (2017年9月19日 23時) (レス) id: e98d2ab7a8 (このIDを非表示/違反報告)
藍沢せんせすき - 面白すぎます笑楽しみにしてるので更新頑張ってください^ ^ (2017年9月19日 22時) (レス) id: 0944e50e01 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ayanel | 作成日時:2017年9月12日 0時

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