拾肆・思い付きと空白と ページ15
《NO side》
狂言の種明しも終わり、花火の件も判った後。
其れは、朝霧のふとした思い付きだった。
『太宰。聞きたい事が有るんだ』
「何?」
『他人に本気で『莫迦だ』と云ったのは、此れが二回目か?』
ーー其の瞬間。
時が止まった、様に思えた。
「何故、そうに思ったの?」
『いや…一寸した思い付きだ。昔お前が誰かにそんな事を云っているのを、聞いた様な気がしてな』
其れは真実だった。
元々他の世界から来た不安定な存在だからなのか、朝霧は時折、知らない筈の周囲の人間の過去を朧げに見る事があった。
彼女自身は(そんな物か)と納得していたが、考えてみれば奇怪だ。
兎も角、先程太宰が「莫迦!」と叫んだ時、朝霧は朧な映像を見たのである。
ーー莫迦だよ***。君は大莫迦だ。
ーーこんな奴に付き合って**なんて莫迦だよ。
倒れる『誰か』に取り縋り、震える声で呟く太宰の姿を。
朝霧の知らない、過去の彼だった。
良く判らない、だから本人に直接。
それだけの理由で、朝霧は太宰に尋ねたのだった。
***
又そうやって、無造作に心を踏み荒らすんだね。
朝霧の問いに、太宰は心の中で呟いた。
確かに、彼が本気で『莫迦』と云ったのは、此れが二回目だった。
人が、自身より大事だと信じた物の為に未来を諦めるのを、彼は常人より遥かに見て来た。
然し、其れにざらりとした嫌悪を覚える様になったのは、ほんの数年前の事だった。
感じていたのが嫌悪では無く遣る瀬無さだと気付いたのは、たった二年前。
気付かせたのは、朝霧だった。
***
人の総てを知る事など、誰にも出来ぬ。
然し、俺達の間の空白は大き過ぎると、国木田は思った。
「…鳴呼そうさ。二回目だ。でも今は、一回目の話はしたく無い」
太宰の過去を、国木田は全く知らなかった。
過去など持たず、完成した状態で此の世にぱっと生まれ出た存在と接するかの様に関わって来た。
出会うまでの日々に横たわる空白の中身を、彼は知らなかった。
『…判った。変な事を聞いて済まない』
先日再会する迄、国木田の中の朝霧に関する記憶は、非常に曖昧だった。
姿が消えたのと同時に、彼女が其処に居たと云う事実さえも消えて了ったかの様に。
二年間の空白の中身を、彼は知らなかった。
「昔話も良いが、新人を迎える準備は出来ているのだろうな。先輩の威厳を持って行動する事を、常に心掛けろ」
其の空白に立ち入れぬ彼に出来たのは、そう云う事だけだった。
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つばき先生(プロフ) - ヒスイさん» 有難うございます。頑張ります! (2016年12月23日 23時) (レス) id: c6022dbc98 (このIDを非表示/違反報告)
ヒスイ(プロフ) - 作品に参加頂きありがとうございます!とても面白かったです♪♪続き気になります!!応援してます♪☆10評価しました!! (2016年12月23日 21時) (レス) id: a217f5439d (このIDを非表示/違反報告)
つばき先生(プロフ) - いちごどーなつさん» ありがとうございます。見ての通りの展開の遅さなので、何処まで行けるかは不安ですが…頑張っていきたいと思います! (2016年12月15日 20時) (レス) id: c6022dbc98 (このIDを非表示/違反報告)
いちごどーなつ(プロフ) - 私もきっと生徒達と同じ反応しますw 続きが気になります! 更新楽しみにしてます(*´∀`)♪ (2016年12月15日 16時) (レス) id: f60c6d1c16 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つばき先生 | 作成日時:2016年12月13日 15時