妖怪㐂伝、虹の岡［all］〜陸〜

紛い者なりにそれなりに ページ22

紫side




猛烈に嫌な予感がした


はやく、はやく行かなければ


そう心より身体が動いていて







「……ん？僧侶さん、どうし……っ……………。」



紫「……っ悪い……急いでんねんっ、」






そこら辺の男が倒れた隙に馬の綱を奪い、野菜を積んだ荷物の縄を解いて手綱を引く

強く引いたことで馬は忽ち声を上げ、大きな脚で駆け回る



急げ…急げ急げ急げ！！！





紫「…っ……ぐぁっ……ちっ、、喧しい！黙って見とけ！」






胸の奥が締め付けられて痛すぎる。心に訴えかけるように胸元をドンッと叩いたら少し和らいだ気がした

馬でさえ真っ直ぐ文句を言わずに走り続けてくれるのに…







お前が否定側なら、お前が止める側になってるんやったら、




心の中の、人間である、光であるお前が止めてるなら




今こうして こんなに焦って、




奥歯を噛み締めながら 冷や汗拭いながら





嫌な予感に、当たるなよなんて願って





あの子供の元へ向かってるのは








一体、誰が…










紫「……………っ、！」









パキパキ音を立てて、建物の柱を燃やす炎



庭であっただろうその広々とした空間には、



植物に血しぶきが飛び散り、


死体がその辺に無造作に転がっている







紫「………………これは、」






頸を切られた体格の良い鬼達の円の中央に、幼子を護るように抱えて倒れている青年

片手で子を、もう片方で刀を握り、気力を失った虚ろな目で死んでいる

あんなガリガリやったんに、人の子一人抱けるぐらい逞しくなったんか

髪も散髪したみたいや ボロボロ具合は、変わらんな






人の成長は、、こんなにも面白いもんやったやろか







紫「………？」






このざわめきは、何なんやろか



子供の、変化を知れた事による嬉しさ


俺がもっと早く着けばという悔しさ




十何年も待って待って待ち望んでいたこいつの死への喜び



その死に対する哀しみ






紫「………痒い。胸の奥が、むず痒い」








こいつが酒呑童子の末裔でも、一人で倒したとは考えにくい
実際負けて死んどるし

ほら、こんなとこで突っ立っとらんと、残りは近くにおるかもしれんのやから、気を張って、、いやっ、戦う必要は、



………あれ？







紫「……なぁ、人間の俺よ。」








もしかして、俺は今怒ってるんか？








.

紛い者なりにそれなりに→←紛い者なりにそれなりに

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す