きゃ！どんどん強くなっちゃう！２ (ページ15)

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クロロは本を読みはじめた

私は特に何もせずジッとしていた。

数十分経った頃、クロロは徐に本から顔を上げて私に話しかけてきた

「Aは本を読むか？」

ずっと同じ姿勢でボーッとしていた私は体を動かすことが億劫で口だけ動かした

『教養としてなら一通り』

「好きな本はあるのか？」

『効率的な拷問方法上級者編』

「…聞き方が悪かった。文学小説で好きなものはあるか？」

『特に無いけど、読まされた中で記憶に残ってるのは高慢と偏見かな』

「あの作品の精緻を極めた人物描写は世界十大小説の一つに存在するにふさわしい」

教養で知ってるだけの私と読者好きのクロロの間の熱量の差は明らか

暇な私にとっては無意味に話を重ねるだけでも必要だった。

『その中では一番かな。あなたは？』

「俺はその中で限定するなら、赤と黒だな」

『意外ね』

戦争と平和か白鯨かと思ったといえば、そこまで暗くないさと笑っていた

「好きになる作品は、自分の内なる共感によって左右される。その作品のメッセージ性に自分自身の身の上や性格、希望その他の要因を投影するから」

『それが小説の醍醐味だわ』

「そして解釈は自分の想像の範疇を超えないから安心する。自分を振り返り、新たな自分を見つけることはあれど、それは元から自分のもの」

『言わんとすることはわかったけど、結局何が言いたいの？』

「俺が本を好きなのは、得るものはあれど、失うものは何一つ無いからってことが言いたかった」

『崇高な現実逃避って言葉をお送り致しますわ』

隣でクロロが笑う音が聞こえた。
依然ボーッとしたままの私

「Aの好きなものは？」

『家族』

「他は？」

『あるにはあるけど、家族よりは好きじゃない』

「食べることもか？」

『欲求を好きと解釈するのは本好きとしては如何なものかしら』

まあ確かにと改めたクロロ

「もしそれが奪われたなら、どうする？」

『愚問ね、取り返すわ』

「それが叶わなければ？」

『奪われるくらいなら私の手で奪うわ、それをしたら私も自分を許さないけれど』

「家族を殺して自分も死ぬか」

『その代わり、私の身ひとつで家族が無事ならなんでもするわ』

あなただってそう思う人達はいるんでしょう？と聞く

「ああ、そうだな。Aは昔もそんなことを言っていた」

『…人違いじゃないの？』

ようやくクロロを見れば、その瞳に吸い込まれるかと思った。どうやら人違いではなさそうだ。