Be My Last (ページ5)

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兄者さんの低い声に、場の空気がすこし止まる。
冷たい目は、明らかにわたしを突き刺す。

弟「兄者何言ってんの？すいませんAさん、この人ほんと機嫌悪くて」

兄「俺らのことすげえじっくり見るからさ。なんか狙ってんのかなって思っただけ」

カマをかけられてる。
一瞬で悟った。

ぴくりとも表情を崩さず、舐めるようにわたしの反応を読む。
だが、ここで動揺したら本当にこの人の思うつぼなのだ。

「わたしこういう華やかな場も男性も慣れなくて…つい新鮮だなと思って、見つめてしまいました」

ごめんなさい、と顔を赤らめながら言う。
今にも口が腐りそうだが、この仕事をやる以上我慢しなければならない。

乙「こんなかわいい子に見つめられるなら大歓迎ですよ！ねえ兄者くん」

兄「ふん」

弟「あ、ちょ、どこ行くの」

兄「便所」

乙「…ったく、気にしなくていいからね～」

「いえ…ごめんなさい、わたしそろそろ行きますね」

疑われているのは兄者さんのみのようだが、あまり長居しても良くない。顔や声は覚えたし、今すぐ仕掛けたらそれこそ怪しまれる。
せめて連絡先だけでも！と肩を抱いてくる乙一さんをひらりとかわし、またねと手を振った。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

弟「飯うまかったなぁ～」

兄「お前はいいな、呑気で」

何！？とつっかかる弟を横目に、兄者はハンドルをきる。
街はもうすっかり暗く、あたりはシンと静まり返る。
帰路にはぽつぽつと灯る街灯と、乾いたエンジン音だけ。

弟「まぁ確かに…あのマフィア野郎、絶対来ると思ったんだけどな」

目下のターゲットはマフィア野郎こと『恵比寿』。
2broを何度も潰そうと狙う金持ち集団のボスだ。今夜のパーティーで、顔を出すという情報が入っていた。

乙「…兄者、Aちゃんがそこのもんだって疑ってたんだろ」

後部座席に横たわり、ノートパソコンを弄る乙一が、ぽつりと呟いた。

兄「おっつんも気づいてたんか」

弟「あれ冗談だろ？……え、マジ？」

乙「さあねぇ、俺に気が合った方に賭けたい…が一応手は打っといた！」

見て！と言わんばかりにパソコンを兄弟へ押し付ける。

弟「…発信機？」

兄「違ってたら普通に犯罪だよそれ」

乙「いーや、俺らのためですよ。本当はどんな子なんだろうね、Aちゃんは」

不敵な笑みは、夜の帳に消えていった。