箒を手の中に ページ7
マルフォイ達は、ネビルの持つ『思い出し玉』で何か、おもしろいことができると考えたらしい。
そもそも『思い出し玉』というのは、握ったその本人が何かを忘れている場合、玉の中が赤くなるというものである。
その日の午後、A達も他のスリザリン生と一緒に、初めての飛行訓練を受けるため、正面階段から校庭へと急いだ。今日はよく晴れた少し風のある非で、足元の草がサワサワと波立っていた。
傾斜のある芝生を下り、校庭を横切って平らな芝生まで来ると、そこにはまだグリフィンドール生は来ていなかった。その代わり二十本ほどの箒が地面に並んでいた。
ふん、とマルフォイが馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「怖気づいたんじゃないか？」
しかし、グリフィンドール生も暫くして来た。Aはサッとミリセントの方を向く。ミリセントがグリフィンドールからAを守るように前に出た。
「なにをボヤボヤしているんですか」
声のした方を見れば、大人が歩いて来た。飛行訓練の先生マダム・フーチだ。彼女は白髪を短く切り、鷹の様な黄色い目をしている。確かに箒が得意そうだ。
「みんな箒のそばに立って。さあ、早く」
急かされ生徒は思い思いの箒の前に来る。Aはマルフォイの隣に並んだ。Aの隣には当然、ミリセント。マルフォイの隣には当然、パンジー、そしてその向こうにはクラップ、ゴイル、と並んでいる。
「右手を箒の上に突き出して」マダム・フーチが掛け声をかけた。
「そして、『上がれ！』と言う」
「上がれ！」
生徒たちがほとんど同時に叫んだ。しかし、箒が手中に収まった者は少ない。少なくともAはコロリと転がっただけ。マルフォイを見てみれば、彼は冷静に「上がれ」と一言。しかしちゃんと彼の手中に収まった。
見ていたのがばれたのか、目が合って馬鹿にしたような笑みを浮かべられる。ムカついたのでもう一度、深呼吸をする。
そういえば、乗り手が怖がっちゃダメなんだっけ。先輩が教えてくれたことを思い出す。
そして、「上がれ」と言えば今度は勢いが良すぎて、手中には収まったが、そのまましりもちをついてしまった。
「大丈夫か？」マルフォイが箒を持っていない方の手で助けてくれる。
「ありがとう。でも、笑ってなければもっと良かった」
まあ兎に角、笑われても、箒はAの手中にちゃんと収まった。
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作者名：蒼使ヰ | 作成日時：2020年6月3日 19時
