日本の家へ ページ38
Aは緑色の日の中をぐるぐると回転しながら、落ちていた。
クリスマスは、日本で過ごすことになったから、日本の家へと戻っている途中だったのだ。
あれ？ 数々の暖炉を横目で見流しながらAは首をかしげる。私、っていうか佐藤家って外国に引越ししたってことになってるんじゃなかったけ？ 今は、誰が住んでんの……。
「うぎぇあ！」
ロンドンに来た時とは逆に、思いっきり顔面から突っ込んでしまった。思わずお腹の底から変な声が出る。例えるなら、つぶれた蛙。
懐かしいフローリングの床を熱いキスを交わした時、Aは違和感を感じた。
ここ半年ほどこの日本の家にいなかった割には、埃がつもってない……？
それでも口をゴシゴシとこすりながら立ち上がり、かつて自分の家だった建て者の中を見回す。
暖炉の反対側にあるテレビ、テレビの横にあるソファ、部屋の満々中にあるコタツ……。全てがロンドンへ行った時と全く変わっていない。コタツが出ていること以外。
足音を殺してコタツに近づけば、まだ温かい。次に隣接しているキッチンに行けば、電子レンジの上に載っているフルーツバスケットには、ミカンと、なぜか、あまじょっぱい煎餅が小袋の状態で入っている。
それでピンときた。
後ろで足音がして、振り向けば、母が立っていた。
「あら、コタツが出てる」
入って待ちましょう。母は普通に、この建物がまるでまだ自分の家なのかの様にコタツに潜り込み、コンセントを刺す。
「お母さん」
Aも母にならい、ごく当たり前、といった体でフルーツバスケットから、白く甘いものがかかった煎餅と、ミカンを数個を母に渡しながら自分もコタツに入る。
「ここに、おばあちゃんたちが住んでるんだね？」
半月たっているのに埃がないのは、掃除を定期的にしているから。
物があんまり動いていないのは、動かす体力がないから。もし顔も知らない赤の他人が住んでいたら、好き勝手に物を自分好みに変えるだろうし、そもそもそうしたらここには来ない。
フルーツバスケットにお煎餅が入っているのは、いつでも子供やお客人を迎えられるようにするため。
それを全てつなげて想像すると、それしか行きつかなかった。
Aは母が笑ったので、正解だと確信した。
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作者名：蒼使ヰ | 作成日時：2020年6月3日 19時
