わすれなぐさ (ページ3)

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ごじゅうさんページ3

6人がそれぞれなにか言ってくれていたのはわかるけれど、言葉の意味が分からなくなって。頭が痛くなる。
不思議なことに涙は出てこなくて、笑顔を上手く作れていたかは分からないけれど「大丈夫、無事なら良かった、ありがとう」と声をかけて逃げるように楽屋から出た。

それからなんとか仕事をこなして、また足りない部屋に帰る。Aのものが無くなっただけでこんなに寂しい部屋になるとは思わなかった。

シャワーを浴びようと浴室に入るとAが買い揃えていた入浴剤たちと目が合う。勝手に使ったら、怒るかな。
、いや、置いて行ったってことは、使ってもいいってことかな。
おれが長湯しないのを知っているはずなのに、どうして置いて行ったんだろう。忘れてただけ？

風呂を沸かして、入浴剤を溶かすと嗅ぎ覚えのあるAのお気に入りのラベンダーの香りのものだったようで、風呂から出たあともしばらく匂いが残っていたから「あした香水いらないかも！」なんて嬉しそうにしていたっけ。
でも次の日、結局香水していたようなしていなかったような。記憶が曖昧で、Aにどうしたのかきこうと思ったのに風呂から上がってもAはいなかった。

髪の毛が濡れたまま、リビングに出ても「ねえ髪乾かしなよ」って困ったように笑うAもいなくて。
テレビをつけても横でケラケラと笑うAはいなくて。

なんとも形容しがたい感情が溢れてきて、ベッドに横になるとAの匂いが少しだけして、心臓が締め付けられるように痛くなる。
どうして、とかなんでなにもはなしてくれないの、とかおれにどうしてほしいの？とか。
たくさんの疑問が浮かんでは答えが出なくて消えて。

泣くのが嫌で、目を閉じたのに涙は溢れて止まらなかった。

「なに考えてんだよ」

今までは。昨日までは。独り言にも「なに？」と返事をしてくれるひとがいたのに。
いちばん返事がほしい独り言は、誰も返事をしてくれなくて、虚しくなった。