蜜の正体は ページ41
『日本だ、東京だ……』
高いビルと無数の光、帰宅ラッシュで駅に向かって一方通行に歩いていく大勢の人。
どう見てもここはカイロじゃない。
私は東京に戻ってきたのだ。
『時間もあの時のままだ』
地面に転がっていた私のカバンからスマホを取り出して日にちを確認すると、転けてカイロに飛んだあの日から何も動いていなかった。
『嘘……』
「怪我もしてるし、君本当に大丈夫か…?」
よろっと脱力感を担ったまま、歩き出す。
親切にしてくれたおじさんも無視して、私は帰宅ラッシュの大衆の中に混じって動いた。
『なんか、やり切れないなぁ』
駅に行って、改札を通って電車に乗る。
ガタゴトと電車に揺られながらずっと上の空だった。
……もしかして全部夢だった?
私がジョジョの世界に行っていた証拠なんか1つも残っていなくて、ただの長い長い夢だったのではないかと。
いつもより電車に乗っている時間が長く感じる。
転んで擦りむいた足の膝も今になって痛く感じて、どうしてか泣きそうになる。
こんな傷、大した事ないのに。
重たい足を引きずりながら、私はやっと家に到着した。
現在の時刻は8時20分。
『…………』
家まで到着したが、私は中々玄関のドアを開けることが出来なかった。
ドアを開けてしまったら現実に戻ってきたということを実感させられる気がして。
あの思い出は夢だった…で片付けられるのが嫌だった。
何でもいいからカイロで使っていた物が入ってたらいいのに。
そう思って鞄を漁ってもそれらしき物は出てこなくて、泣く泣くドアを開けて家に入った。
『……ただいま』
「おかえりA。あら、どうしたのその怪我」
『……転んだ』
「おっちょこちょいはいくつになっても治らないのね。こっちに来なさい、絆創膏貼ってあげるから」
言われるがまま母の元へ行って、ソファに腰掛ける。
久しぶりの我が家のソファは少し違和感。
「ねぇ、何してきたの?」
『え?……痛っ』
お母さんが私の足を消毒しながら聞いてきた。
昔から手当が何か雑というか手荒、もう少し優しくやってほしい。
傷口に消毒が染みた。
「アンタ、何処か行ってきたでしょ」
『何で……?』
「お母さんには分かる、はい完成」
ベタっと貼られた茶色い絆創膏を見つめる。
さっきまでヒリヒリしてた痛みはもうそこにはなかった。
カイロ行ってきた!なんて言ったら笑うでしょ。
「ぶはっ、何これ!」
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俺☆ - やばいめっちゃ面白いのにめっちゃ感動してる。何だこれ。 (2023年1月5日 11時) (レス) @page50 id: b2c114123d (このIDを非表示/違反報告)
Earthあーす(プロフ) - あれなんか目がナイアガラの滝になってる (2023年1月4日 18時) (レス) @page43 id: 0fcf2cea39 (このIDを非表示/違反報告)
しらとめ(プロフ) - 面白いのになんとなく泣きそうになってきます (2022年11月28日 17時) (レス) @page35 id: 353a651934 (このIDを非表示/違反報告)
地獄の番人 - DIOの代わりに空条承太郎パイセンとくっついちゃいましょう!!面白かったです。続きを楽しみに待ってます!! (2022年11月28日 1時) (レス) @page33 id: d126292683 (このIDを非表示/違反報告)
ペトリ皿(プロフ) - やばい。展開も何もかもが面白すぎる。 (2022年11月27日 18時) (レス) @page32 id: cbc38767b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:光と慈雨 | 作者ホームページ:http:// http://uranai.nosv.org/gen.php/novel/
作成日時:2022年9月5日 23時