海底に棲むきみ【迅悠一】 (ページ29)

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十九日目ページ29

迅 side

おれは、Aに求め過ぎているのだと思う。

思ったより彼女に依存しているのはおれの方だし、
なにより彼女の隣に居る間SEが使えない(視えない)自分で居られることが嬉しかった。

サイドエフェクト。意味は副作用。

高いトリオン能力を持つ人間に稀に発現する特殊能力。超能力と評されることもあるが、あくまで人間の基本能力の延長線上のものでしかない。

そう言われるのに、おれのサイドエフェクトは確実に"人間の基本能力の延長線上"とは言えない。

そんな中、Aに会った。
彼女もとても人間の基本能力の延長線上にあるとは言えない副作用を持っていた。

おれと一緒で、バケモノだった。

だけど、おれは彼女と居る間は未来が視えなかった。

おれはAと居る時だけ、人間でいられる。

未来と過去が視えるこのサイドエフェクトは遺伝的なものなのか。
相反するおれらは、2人でこの苦しみを分かち合うことしか出来ない。

A自身は、自分のSEのことを"役立たず"だと称する。
他人のことが救えないかららしい。持っていても意味が無いと、昔言っていた。

【悠ちゃんはみんなの役に立ってるよ】

そう彼女は言うのだ。

そんな時おれは、
おれのSEがみんなの為なら
AのSEはおれの為なんじゃないか。だなんて、

有り得もしない事を考える。

おれは、彼女自身がSEで苦しんでいるのを知っている。
誰の前でもバケモノでしかあれない彼女を見て、

おれはいつだって安心している。

苦しんでいる彼女が居るのを知っていながら、
おれはAの背中を摩ることしか出来ない。

過去なんて視なくていいと、
おれはAに言ってあげられない。