海底に棲むきみ【迅悠一】 (ページ26)

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17日目ページ26

迅「宇佐美から聞いた。なんも飲み食いしてないんだって？」

ドア越しに、迅の声が聞こえる。
私は布団の中から出ていかない。

扉の鍵は閉めている。

私は口を開かない。

迅「迅さんからも何か言ってやってって、言われたんだけどさ。どうしたの」

彼をみている人間全員、迅悠一という人間について知らない。

優越感でもなんでもない。
誰にもわかって貰えない彼は、誰に救われるのだろうか。

迅「A、顔見して」

不安そうな彼の声。
唯一私だけが、迅を不安にさせることが出来る。

別に嬉しくは無い。

不安はいつだって、どこからともなく急にやってくる。
人生の終わりと同じだ。最期は、急にやってくる。
前兆なんてない。

迅「せめて、水は飲みなよ。」

ここまで言ったあと、彼は"A。寝てるの？" と
声を上げる。

むくりと布団から起き上がって、彼がいるであろうドアの前に座り込む。

『悠ちゃんが、居て、私が苦しむなら。
悠ちゃんはどうするの。』

ドアに向かって話し掛けた。
縋るようにドアに寄りかかる。

迅「苦しいのを忘れるくらい、おれが隣に居る」

開けて。
優しく、子供に言って聞かせるような。
そんな声色で彼が言う。

誰から学んだのだろう。
この声の出し方は。

馬鹿な私は、そんな声にドアを開けてしまう。

床に座ったままの私を見て、迅は何も言わずに私の部屋に入ってきた。

せっかく開けたドアの鍵を再び閉めて、
床に座り込む私の腕を引いては
無理やり立たせた。

冷たい床を素足で歩いて、私はさっきまでいた布団の上に移動させられる。

迅「酷い顔」
私の頬を、迅の大きな手が撫でた。

それにつられて、私の視線は彼の顔へと移動する。

迅「まずは水、飲もうな。」

私の頭をくしゃりと撫でて、持ってきたペットボトルを私に差し出した。