冷たい服従【灰谷蘭】

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灰谷蘭の自宅はつまらないほど広くて殺風景だった


物少なくて綺麗に片付けられてたけど、床の埃が気になったので適当に掃除機をかけて、タンスの布団を引っ張り出し、自分の寝床を造る


ここで逃げたらどうなるんだろう


━━━━街の防犯カメラ全部こっちで確認できっから。逃げるなよ


おまけに携帯にはGPS



『………ﾁｯ』





もう諦めた


ここから抜け出す方法はおいおい考えよう



お腹は空いてないけど力が出なくなると困るので最小限の道具と食材しか置いてないキッチンに立った




.





しばらくしてドアの音が聞こえて、包丁を動かす手がより早くなる

床に人影が映っても、何も言わず何も見ない






「なーに作ってんの」



気を逸らそうと手元に集中していたせいか、完全に隙だらけだった


柔らかく腰に回された手
肩に乗る重み
ふわっと香る甘くてほろ苦い匂い

背中から全身にかけてゾワッとした



「あ、今ちょっとピクってなったのかわいー」


落としそうになった包丁を持ち直す

可愛いの基準が分からない

多分そこら辺の石ころにも可愛いって言うんじゃないの



『離れて、タバコと香水臭い』

「料理出来るんだ？すごい」


完全無視

今引っ付いてるこいつに向かってコレ突き刺せば殺せるんじゃない？

まあ失敗したら一大事なのでしないけど




「何だかんだ受け入れてくれてんだなぁ、同棲」

『ただの命乞い。故意的にあんたに何かすることはない』

「つまり命令したことはなんでもしてくれるってことだ」

『………』





理不尽な命令が飛んできそうな予感





「一緒に寝よ」

『………嫌』




的中した




『どうせ早速ほかの女抱いてきたんでしょう』



乱れた髪

捲られた袖



期待も希望ももうないから、何も思わないけど

とにかく最低な奴だって、それだけ




「一緒に寝ろ」



命令口調に変わって同じ事を繰り返される



『…私はあんたにとってただのお飾りなのに、なんでそんなことしなくちゃいけないの』

「ん？命乞いしてるんでしょ」



見えない圧

言葉にされなくても十分伝わる感情

くいっと顎を指先で持ち上げられる

その気になればいつでも振り解けるのに




なのに出来なかった





「だったらもっと、俺に媚びなよ」





貼り付けたような笑みも、嘲笑う表情も、もうなくて



『んっ………』




腰を引き寄せられて強引に唇を奪われる








なんでかな





そのキスは、嘘の味がしなかった

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