冷たい服従【灰谷蘭】

43【蘭side】 ページ43

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「……A？」




家までの道のりがやたら長く感じた





息を整える


こんなに全力で走ったのいつぶりだ


苦しい






必死に酸素を吸ってたのに、フローリングに足を踏み入れるなり息が止まる







リビングの戸の隙間から流れてくる液体




真っ赤な液体を見て、全て覚ってしまった





ドアを開けたくない

受け入れられない




少し開く度に広がる隙間から溢れ出てくる





足に触れた液体はまだ少し温かかった


あいつはあまりに冷酷で異常だから、てっきり青い血でも流れてるのかなんて思ったけれど



なんて言ったら、『こっちのセリフだよ』って言い放つんだろ









血の匂い


もう慣れていたはずなのに


嫌いだと言ったの、きっと覚えてたんだろうな






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「当てつけ、か」







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俺の命令を受け入れなかった





従者失格だ








血みどろの死体をそっと抱き寄せる

俺はこいつが全てだったのに、こいつは俺が全てじゃなかった

それがたまらなく憎らしい





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元々人形のように青白い肌だった

亡骸になった姿と大して変わらない



目を閉じてるだけなんじゃないかって思ってしまう





死んでまでも整った顔にムカついて頭を思い切り蹴飛ばした



力の抜けてる首は変な方向に曲がる







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起きろよ





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起き上がって包丁でもなんでも向けてこいよ







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ため息をつく



遺言の一言でも残してるのではないかとスマホを開いたけどAとのトーク履歴には通話時間1分の文字だけ






死体が嘲笑ってるように見えて目を逸らした



俺はお前とは違う








俺は孤独じゃない

信用出来る仕事仲間に、唯一無二の弟、最強のボス




それなのになんで、


なんでお前より惨めなんだよ





しばらく死体を弄り続けていた


無心でひたすらに







いつの間にかその綺麗な顔も原型をとどめていないほど崩れて赤黒く染まっていた






肌色の部分が見えないほど血のついた手でブロックしていた数十人の女の名前をタップしていく







ワンコールで着信に応えるような女は幾らでもいる






「あ、もしもし？カノジョと別れたんだけどさぁ、今日の夜空いてる？」





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それでも、








この心の穴を塞ぐものは



もうこの世のどこを探してもないのだろう

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