冷たい服従【灰谷蘭】

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そいつが帰宅してきたのは九井さんが去ってから間もない夜だった





「あ、目ェ覚めたんだ？大丈夫ー？」




何ともなさそうな顔で

平気そうに歩いてたけどスラックスと靴下の間から見える包帯がミスマッチだった



『……どこ行ってたの』



いつもなら基本無視だけど、さすがに気になってしまった


「え？今朝電話ガッツリ聞いてたでしょ？女と遊んできた」



………その足で？

事故の直後に？

マジでどうかしてんなこいつ



『………九井さんが、来たけど』



私の横を通り過ぎる瞬間に言い放った

キッチンに向かう姿を目で追う



『私の事殺してるかと思ったって。死体引取りに』


「へー、そうなんだ」





目の前に珈琲の注がれたカップを差し出される



『………なんで私のこと捨てないの」




受け取らないで、そう尋ねた

純粋に意味が分からなかった

こいつが私に見込んでたものってせいぜい、"綺麗で自立してそう、一緒にいてもイライラしなそう"ってことでしょ

今のところ迷惑しかかけてないし嫌がらせしかしてない





「なに、死にたいの？お前」


『……死んでも仕方ないとは思ってるよ』


「悪い事した自覚はあるんだねー」




そっちだって悪い事された自覚はあるんじゃん


ならどうして




『……来て欲しくなかった』


あのまま死んでた方がマシだった

って言ったら、怒るかな





『もう戻れないじゃん私達。全部あんたのせい。あんたさえ居なきゃ……』




口からボロボロでる言葉は事故を起こす前と何ら変わりない低レベルなこと


それでも懲りてなくて、不満ばっかり積もってく



「……そう？」



いつまでもカップを受け取らない私を見兼ねてテーブルに置かれる

隣に腰掛けられると、ソファが沈んで体が傾いた



「お前のボスが、愛する恋人の事信じられないようなチキンだっただけじゃね」



そのまま灰谷蘭の腕の中にすっぽりと収まっていた


『ひっ……』


不意打ちに接触されると驚いてしまって鳥肌が立つ


「俺ならそんな思いさせないよ」



そんな思いって何

軽々しく言わないで

私の経歴を知った位で全部分かった気にならないで




『…………離して』



激しく動けば頭が痛むので、口でしか抵抗出来ない

くすくす笑う声が聞こえて尚更ムカついた



「もう俺しかいなくなっちゃったね」



からかうようで、どこか、慰めるような言い方だった

癪に障る






『………最悪』



私はこいつが居なくたって生きてけるし

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