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「え、拳くんって人混みとか苦手でしたっけ…?」
「以前旅行は嫌いって言っていたような気がして」
翌日、昨日の出来事を河村さんに話していると思いもよらない事実を告げられる。昨日は平日だったし、そんなに人もいなかったから…セーフ?自分が楽しむばかりで全然拳くんの事考えてなかった…!
「まぁAさんがそれだけ楽しんでいたなら、きっと福良も楽しんだでしょうね」
「そうだといいんですけど…」
「まぁまぁそう落ち込まずに」
おもむろにポケットから取り出したチョコレートを私の手を掴んで握らせてくれた。お礼を言う間もなく颯爽と去っていく河村さんの後ろ姿が少しかっこよく見えた。
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お昼になり執務室がお昼モードになる。仕事を一区切りさせ拳くんの方をちらりと見ると、丁度終わったように見えたから私のお弁当を取りに行くついでに拳くんのお弁当も取り出す。お弁当を渡しに拳くんの元へ駆け寄って声を掛けるも、何故か視線を合わせてくれず。
「拳くん?」
「ごめん、後で食べるね。ありがとう」
「う、うん…」
一応受け取ってはくれたけど昨日とは打って変わってなんだか少し怒ってる?…やっぱり水族館なんて楽しくなかったんじゃ……
自分ばかり楽しんでいたのだと思いこみ少ししょぼんとしてお弁当を食べていると、隣の席に誰かが座った。顔を上げると、手にサンドイッチを持った河村さんだった。
「なんだか背中が元気ないように見えたもので」
優しく話しかけてくれた河村さんに思わず不安を吐露した。吐き出してすぐに、また人の気持ちを考えずに自分の気持ちをぶつけてしまっていることに気付く。
「ごめんなさい、河村さん関係ないのに…」
「いえいえ、あながち無関係では無くなって来ているみたいなので。想定内ですが」
「…?」
河村さんの言っていることが良く分からず首を傾げると何かを見つけたように河村さんが私の顔を見て「あ」とこぼした。
「まつ毛が取れそうでほかのまつ毛に乗っかってます。取ってもいいですか?」
「お、お願いします」
「目に触れるといけないので目を瞑っていて貰えますか?」
河村さんに言われた通り目を瞑る。毛先に僅かに触れられた感触がしたのち、取れましたよ。と声がかかって再び目を開けた。
「今のこの一連のやり取り。あなたが感じた気持ち、忘れないでくださいね」
「…んん?河村さんそれは一体どういう…?」
「その内分かることですよ」
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作者名:ひなた | 作成日時:2021年9月19日 10時