真の愛情が君を救うのか ページ40
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荷物を片してリビングに向かうと父親の姿がそこにあった。普段と変わらずソファに座ってテレビを見ているその後ろ姿は、拳くんが居るからだろうか。いつもと漂っている空気感が若干違った。
「ん?あぁ、A帰ったのか。拳くんもいらっしゃい」
「ご無沙汰しております」
私の中では両親と拳くんは初対面なのに。私の知らない過去が3人の中には確かに存在していた。何だか、仲良さそうに話していると変な感じだ……
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「今度こそ…今度こそきちんとAさんをお守りますのでとうか僕らの交際を認めていただきたいです」
「えっ……拳くん?」
夕飯を4人で囲んで楽しく談笑していたと思ったら…唐突に拳くんが両親に向かって頭を下げながらそう放った。
隣で聞いていた私は、まさかそんなことを言いに来たのだなんて思いもよらず妙にあたふたしてしまう。
「まぁ…私は大歓迎だわ!拳くん以外にAの隣に立つ人なんて考えられないもの!」
「ちょっとお母さん…」
「あら、Aだってそうでしょう?」
本人を横にして違うだなんて言えるわけないじゃない…もっとも、大正解なんだけどさ。母親の言葉に安堵したのか、少し緊張が解けたような顔をしていた拳くんだが、父親の顔をチラリと見ると、再び険しい顔に戻っていった。
父親は……母親とは正反対に、静かに腕を組んで思いふけっているようだった。その姿からは何か、考えるものでもあるかのようで……
「……済まない、少し考えさせてくれないか…」
「……もちろんです。じっくり考えて頂きたいです」
父親が何をそんなに拳くんに対して不安に思うのか、躊躇うのか。まるで分からなかった。
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「じゃあ、おやすみなさい」
夕食を終え、就寝の時間。拳くんは客間に。私は久しぶりに母親と布団を並べて眠ることになった。
「うん、おやすみ。あ…トイレの場所とか分かる?拳くんの客間からは……」
「昔何度も来たことあるから分かるよ」
「……そっか。そうだったね、ごめん…」
どうにも、拳くんをお客様扱いしてしまう。未だに彼が幼馴染で昔からの知り合いという関係に慣れないでいる。全ては私が記憶を無くしてしまったせい……少し、気分を落としかけ目も合わせられず目線を下に向けていると、私の頭を優しく撫でてくれる大きな手。
「謝らなくていいよ。明日までにはお父さんに説得してみせるから」
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時