はじめまして故郷 ページ39
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『本日も、〇〇航空△△便をご利用頂きありがとうございます……』
徳島に帰る話が、拳くんと出た日の夜。母親に事情を話せば快く受け入れてくれた。拳くんのご両親からも予定を聞き取り、GWに2人で帰省することが決まった。
今まで1人で乗っていた飛行機にもこうして誰かと一緒に乗るなんて無かったから、この機内アナウンスを拳くんと一緒に聞いている事が些か違和感を覚えなくもない。
『それでは、ごゆっくりおくつろぎください』
「休みが取れてよかったね」
「頑張って仕事終わらせてきたよ」
同じ編集部に居ると、ライターだけをしていた頃に比べて拳くんの多忙さが更に目についた。それでも、GWにまとまったお休みを貰えるなんて余程頑張ったんだろう。
「良く頑張りました」
「……子供じゃないんだから」
親が子に頭を撫でるように、拳くんの頭を撫でてあげると照れ隠しなのか窓の方へと顔を向けられてしまった。
隠しきれていない耳の赤みがなんとも可愛らしかったけど、これ以上揶揄うのは辞めておこう。
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「わぁ……懐かしい、徳島だ…」
「この辺は変わらないね」
「古き良き田舎って感じだよね」
タクシーを使えば良かったかもしれないけど、まだ拳くんと話していたくてでこぼこ道を歩きながら、街並みを見ては話に花を咲かせた。
「ほぼ香川で育ってるから俺の地元は香川って言ってるけどやっぱり徳島も徳島でいい所だよなぁ」
「ふふっ、でしょ?」
「うん、徳島も大好き」
まるで自分のことを褒められているようで、少し嬉しくなる。私は徳島と今住んでる東京しか知らないけど、香川はどんな所なんだろう。
拳くんのご両親と会うのが楽しみだ。
「あ、私の家あそこだよ!」
「……久しぶりに来たなぁ」
……そっか。拳くんは、私の家知ってるんだ。何度も来てくれてたのかな……
夕陽に染まった横顔は、尚のこと哀愁を漂わせていた。
「ただいまーっ」
「お邪魔します…」
玄関を開けて、家に入ると私と拳くんを見るや否や、何だか泣きそうな、嬉しそうな、そんな顔をした母親が居間からやってきた。
「ご無沙汰…しております」
「拳くんもよく来たね。さ、上がってちょうだいな」
母親と拳くんは、きっと私が記憶を無くしてからは合っていないんだろうな……という事は、2人が会うのはあの事件以来……気まずくなるもの仕方ない。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時