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「………っ、!ここや…!!」
期待しなかった訳やない。
期待してほんまに居らんと分かるんが不安やったんや。
見上げた家のベランダは自分がよう居た場所。
エレベーターを待つ時間すら惜しくて、二段飛ばしで階段を駆け上がる。
(もしかしたら、もしかしたら…っ!!!)
根拠も自信も、なにもない。そこに居る確証もない。
ただ会いたい。
その一心が自分の身体の原動力になっていく。
「はっ、一階のが、家賃安いて…っ。くっ…!」
喫煙者の簓さんにはきついでしかし。
でもそれももう終わる。
よたよたと息を切らし、壁伝いに歩けばあっという間に目的地に着いた。
─────お惣菜だけど、食べますか?
「っ、」
泣きたい。
俺、やっぱAちゃんが好きや。
無意識に避けてたんはそこに大事な思い出が多すぎるから。
ここすらなかったらと怖なかったから。
目の前の扉から何度も家を出て、何度も帰ってきた。
─────ここは、Aちゃんの家や。
「……勢いで来てもうたけど、どないしよ…っ」
インターホンを押すか押さへんか。
そんなしょーもないことに心臓がばくばくと壊れそうで、苦々しく唇を噛み締めた。
「よ、よしっ……!虎穴に入らずんばなんとやらやっ!」
二回頬を叩いて気合いを入れ直す。
まだ日が高い時間や。正直居らん可能性の方が高い。
彼女やて立派な社会人や。
でもほんまに居ったらどないしよ。
思わず抱きついてしまうかもしれへん。
─────簓さんの家はここでしょ。
そう言ってきょとんと小動物が覗くような目をした彼女。
(Aちゃんが居てこそ、俺んちやん)
「いざ…っ…!!!」
震える指先を正し深呼吸をする。
少し肌寒い空気にむせ返りそうになった。
期待すんな白膠木簓。ここには居らん思え。
せやないとがーんって効果音を口で言う羽目になんで。
もし彼女と同じ姿の人がおって、俺のことを知らんかったらどうしよ。
ピンポーン
「………っ。」
そしたら初めからやり直せばええ。
記憶を上書きして距離を縮めて、
またあの柔らかい髪を撫でて。
「Aちゃん。すまん」
諦めの悪さが、簓さんのええとこなんや。
△俺の辞書にさよならはない
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るる(プロフ) - 簾さん» 簾様、誤字のご指摘ありがとうございます。該当のページは修正させて頂きました。また何かお気づきの点ございましたらご報告頂ければ幸いです。 (2022年8月16日 22時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
簾 - day46の最後、るるって作者様のお名前ですか…? (2022年8月16日 21時) (レス) @page21 id: 7996fa9caa (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 朱鳥さん» 朱鳥様コメントありがとうございます。星評価足りないなんてとても嬉しいお言葉ありがとうございます。いよいよ二人の新展開が始まりました!今後とも更に楽しんで頂けるよう頑張りますので乞うご期待ください。サイト開設しましたらまた告知させて頂きます。 (2022年1月6日 10時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
朱鳥(プロフ) - 更新お疲れ様です。どんどん引き込まれていく展開で毎回ハラハラドキドキしてます。たくさん押したいのに星の評価が足りないくらいです。サイト開設されましたら是非、そちらも見に行かせていただきたいです。 (2022年1月5日 0時) (レス) @page46 id: 53a215b2a7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - なっつさん» なっつ様コメントありがとございます。過去作まで何周もして頂いてとても嬉しいです!今後とも続きを楽しみにお待ちください!お気遣い頂きありがとうございます。なっつ様もお身体に気をつけて。サイトも開設しましたら告知させて頂きます! (2022年1月3日 10時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年11月15日 21時