▽Day.56 ページ49
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ぬるでさん。
その違和感は思ったよりも尾を引いとった。
ささらさん、ささらさんっていつもあのかわええ声で呼ばれてたんや。
居心地の悪さっちゅーか、物足りなさっちゅーか。
「はあ」
「まーたため息ついて。飲み過ぎですか?」
「ちゃう。胃もたれや(恋しすぎて)」
「明日でこっちの仕事も終わりですからね。
体調悪くても気張ってもらいますよ」
そう言ってマネージャーは呆れ顔で楽屋を出て行った。
あんなこと言うて何か買うてきてくれるんやろな。
優しゅうて惚れてまうわ。
しんとした部屋。
「あー……タバコ、やなかった。飴ちゃんどこやったっけ」
独り言を言ってバックを漁るがいつもの場所には見つからない。たしか持ってきた筈やけどなあ……。仕方ないから楽屋に備えられていた菓子箱から一つもらうことにした。
(オレンジ)
ぱっと開けて真っ先に目についた一色。
チームの色、もそうやけど、思い浮かんだのは昔の思い出だった。
あの時渡した飴ちゃんの色や。
そう、偶然にも再会したAちゃんに渡したあの。
「………Aちゃん、ほんまに俺のこと忘れてた」
呼吸する度ため息が溢れる。
出会えた嬉しさが八割を占めていた筈なのに、寂しさがそれを押し出していく。
(もしかして、とは思てたけど…)
「はあ、これからどないしよ……」
あの夜を思い出しては後悔する。ホテルのベットも全然眠れへんかった。
「え?今じゃないんですか?攫、んぐっ」
「言うたらあかんて。知り合いの知り合いの怖いおまわりさんにバレたら困る」
路肩で手を上げたらすぐにタクシーが止まった。こんな時ばかり簡単に捕まって、タイミングが良いのも悩みようや。音を立てて扉が開くとすぐに彼女を車内へ押し込んだ。
「おっちゃん。これでこの子家まで送ったって」
「!?そ、それは困ります!!お金なんて頂けないですよ!」
万札一枚。Aちゃんの性格は分かってるから断るのは想定内。それは勿論運転手に直接渡して。
「今日は帰り。ほんま、会えてよかったわ」
「白膠木さん、」
車内から上半身を戻す途中、頭を撫でられたことに安堵した。
俺、今度は笑えてる。さっきみたいな泣き顔やない。
(あかん、帰したない。けど、)
寒さで赤くなった頬が愛おしい。小首を傾げる。でも我慢せな。
(Aちゃん、たぶん俺のこと忘れとる)
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るる(プロフ) - 簾さん» 簾様、誤字のご指摘ありがとうございます。該当のページは修正させて頂きました。また何かお気づきの点ございましたらご報告頂ければ幸いです。 (2022年8月16日 22時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
簾 - day46の最後、るるって作者様のお名前ですか…? (2022年8月16日 21時) (レス) @page21 id: 7996fa9caa (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 朱鳥さん» 朱鳥様コメントありがとうございます。星評価足りないなんてとても嬉しいお言葉ありがとうございます。いよいよ二人の新展開が始まりました!今後とも更に楽しんで頂けるよう頑張りますので乞うご期待ください。サイト開設しましたらまた告知させて頂きます。 (2022年1月6日 10時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
朱鳥(プロフ) - 更新お疲れ様です。どんどん引き込まれていく展開で毎回ハラハラドキドキしてます。たくさん押したいのに星の評価が足りないくらいです。サイト開設されましたら是非、そちらも見に行かせていただきたいです。 (2022年1月5日 0時) (レス) @page46 id: 53a215b2a7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - なっつさん» なっつ様コメントありがとございます。過去作まで何周もして頂いてとても嬉しいです!今後とも続きを楽しみにお待ちください!お気遣い頂きありがとうございます。なっつ様もお身体に気をつけて。サイトも開設しましたら告知させて頂きます! (2022年1月3日 10時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年11月15日 21時