居候がおりまして。ver.3【白膠木簓】

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「─────！？」





いつぞやと同じ、飛びついた細い手首。







「Aちゃん」



「──────、」







振り向いた顔を見て目頭が熱くなるのを感じた。





(柔らかい髪と甘い香り)





身に纏う大きめのコートは誰のものか。



だけどそれ以外は何も変わっとらん。


ようやく会えた、ようやく来たんだ、やっと想いが叶って。


彼女はえ？とかあのとか言っていたが、自分の伊達メガネ越しに絡んだ視線に気づくとすぐに息を止めた。






「まさかぬるでさ、」


「っ、ストップ」


「っ！？」






「名前はあかん。こないなとこで呼んだらあかん」






口元を塞いだ掌に温い呼吸が当たる。



ぞくり。こんなん鳥肌たつくらい昂ってまうわ。

愛しさが爆発しておかしゅうなりそう。



生きてる。触れる。



今ならあの時のように彼女の口を塞いでしまうことだって、出来る。






(やって二年や。いい歳こいた男が決まった子も作らんで二年)






「……………？」






そこに好きな子とする以上の快感があるわけないのに。






「は、」






(名前を呼ばれたら、隠しとった欲に負けてまう)






でも俺を映すその瞳を裏切りたくない。
そう思ったら言い淀んでいた言葉がすんなりと口を出た。







「─────なあ姉ちゃん。簓さんに攫われてくれへん」







そんなこと言いつつ有無を言わさん俺の態度に彼女の身体がびくりと反応した。


相変わらず分かりやすい。
それでいてたまに虚勢を張る姿がほんまに可愛らしくて。


懐かしさに自然と口元が綻んだ。






「一生に一回のお願いや。危ないことはなんもない。

嘘ついたら針千本飲んだる」






いまどこにおるん。


いつこっちにきたん。


ひとりですんでるん。


さまときとはなんなん。




どうしてここに。






(Aちゃん。教えて)






「ええやろ。俺、ずっとアンタに会いたかったんや」






横髪を掬い現れた耳元に唇を近づけると、彼女の指がぎゅうと握られたのが見えた。ちょっと低い背丈。




この感覚、初舞台が終わった時と同じ。







「今度は自分が居候する番やろ？」







笑いを食い尽くしても尚、もっともっとと強請る。




欲しいもんに貪欲なんはずっと変わらんわ。




▽綺麗な瞳に卑しい影を見る


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