居候がおりまして。ver.3【白膠木簓】

▽Day.52 ページ38

.




「クリスマスに苦しみます〜……」
「つまらんこと言うとらんではよ行け」


「盧笙も一緒に来たらええやん」
「俺は冬休みの巡回せなあかんのや。今時の高校生っちゅーんはませとるから今日みたいな日は何しでかすかわからん」




どうせ躑躅森先生はクリスマスも一人もんやから〜って騙されたんやろな…。たぶん本人は気ぃついてへんけど。


能天気で羨ましいなんて言うたら殴られる気がしたから黙っとくことにした。





「ほないってくるわ〜」
「おう。よいお年を」


「そこはいってらっしゃいやないんか！」
「なんでお前と夫婦漫才せなあかんねん」


「はあ〜相方はつれへんし年末年始は仕事ばっかやし、気ぃ滅入るわー……」





諦めたように彼の家の玄関を開ける。
いってらっしゃい、と言われた記憶も随分懐かしいもので振り返ることすら少なくなった。






「簓」
「おん？」



「初笑い、期待しとんで」


「……おう！笑い納めも初笑いも、簓さんにまかしとき！」






また来年。がちゃんと閉じられた扉を見て歩き出す。



ああ今年も盧笙に世話んなりっぱなしの一年やったなあ。

……ちゃうか、俺がおっさんの詐欺から助けたんやから俺が世話して……？





「ま、どっちでもええか！」





するとタイミングが良いか、マネージャーから一本の電話が入った。昨晩盧笙の家に迎えに来るよう伝えたから恐らく到着したという連絡だろう。






(さむ………、霜が降りとる)






滑らんようにそっと。キャリーケースががたつく音。


この季節になると受験生ばりに滑るとか転けるとかに敏感なる。






「これやから冬は嫌いやわ」






赤くなった鼻を隠すようにマフラーを持ち上げ、ダウンの奥に首を窄めた。



今日から暫くオオサカを離れる。
最後に向こうを訪れたのはそれほど前の話ではない。


でもその度心臓が冷える思いをするのはいつだって変わらなかった。






「帰ったら零も呼んで盧笙んちで新年会や…！」






オオサカに戻って二回目のクリスマス。


二回目の冬。


今年も彼女は隣にいない。


.

.→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す