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「とりあえず…俺はこういうもの、です」
「か、観音坂、独歩さん?」
「ああ」
スウェットを借りた私に差し出されたのは一枚の名刺だった。
なんて業務的な自己紹介。仕事は医療機器の営業マン。
その隈から察するにさぞかしブラック企業なんだろう。
「私は昏夜Aです」
「お前なんであんなところに落ちてきたんだ?」
「それが……私にもちょっと分からなくて」
覚えているのは何かの拍子にベランダから落下したという記憶。
全身を確認したところ擦り傷はなく、痛みも無い。
手の感触もあるから夢ではなさそう。
「私、生きてますよね?」
「……徹夜明けの俺の頭が正常ならな」
(なんて頼りない)
幽霊とかそういうのは無しだからなという観音坂さんの顔は真剣そのもの。
背後霊も地縛霊も彼の顔色には逃げてしまうと思うけど。
「ふあ……、で、昏夜さん、だっけ」
「はい」
「何が起きたか整理したいんだけどいいかな」
「私も賛成です」
欠伸を噛み締める観音坂さんに私は起きたことを話した。
落ちる瞬間誰かの名前を呼んだ気がしたけど……、かくんと寝落ちしそうになった彼を見て申し訳なくなり、その話はしなかった。
「………というわけです」
「んん……風呂場の天井も穴は空いてなかったし、まるで怪奇現象だな」
「…………」
「おいどうした?」
「あ、ごめんなさい」
「……急に黙らないでくれ。俺が不安になる」
あまりにもすんなりと話を聞いてくれるから思わず黙り込んでしまった。
ああなんで俺がこんな目に、とは言いつつも一緒に考えてくれるんだ。この人は。
「あの…私の話信じてくれるんですか?」
「当たり前だろ。実際にこの目で見たんだ。疑いたくても疑えない」
「あり、がとうございます」
「………いえ」
そう言って観音坂さんは照れ臭そうに頬を一掻き。
それも誰かが同じことをしてた気が。
濡れた髪も話している間に乾いてしまったようで、彼の癖っ毛がぴょこんと独り立ちを始めていた。
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るる(プロフ) - 簾さん» 簾様、誤字のご指摘ありがとうございます。該当のページは修正させて頂きました。また何かお気づきの点ございましたらご報告頂ければ幸いです。 (2022年8月16日 22時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
簾 - day46の最後、るるって作者様のお名前ですか…? (2022年8月16日 21時) (レス) @page21 id: 7996fa9caa (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 朱鳥さん» 朱鳥様コメントありがとうございます。星評価足りないなんてとても嬉しいお言葉ありがとうございます。いよいよ二人の新展開が始まりました!今後とも更に楽しんで頂けるよう頑張りますので乞うご期待ください。サイト開設しましたらまた告知させて頂きます。 (2022年1月6日 10時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
朱鳥(プロフ) - 更新お疲れ様です。どんどん引き込まれていく展開で毎回ハラハラドキドキしてます。たくさん押したいのに星の評価が足りないくらいです。サイト開設されましたら是非、そちらも見に行かせていただきたいです。 (2022年1月5日 0時) (レス) @page46 id: 53a215b2a7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - なっつさん» なっつ様コメントありがとございます。過去作まで何周もして頂いてとても嬉しいです!今後とも続きを楽しみにお待ちください!お気遣い頂きありがとうございます。なっつ様もお身体に気をつけて。サイトも開設しましたら告知させて頂きます! (2022年1月3日 10時) (レス) id: b70bae4cdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年11月15日 21時