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「簓」
「!………左馬刻?」
「行くぞ」
「は?」
どこに、などと言う前に左馬刻は立ち去って行った。
その後ろ姿を追ってバタバタと部屋を出ると目を丸くした一郎と空却の姿。
出来すぎた兄貴を気取るやつ。
破天荒の星の元に生まれたやつ。
「………ふはっ、なんつー顔しとんねん」
「「!」」
そっと歳の離れた二人の頭に手を置く。
情け無い。こいつらにこない顔までさせて、最年長の風上にも置けん。
「自分らの兄貴は手が焼けるなあ。
あっちっちーで火傷してまうで」
勿論自分も含めてな。
すぐに戻るという言葉に彼等は静かに頷いた。
男がいたのは事務所の屋上だった。
「遅えよ」
「あほ。どこ行くか言われてへんのに来れただけでももっと褒めーや」
「身体は?」
「問題ないでー。校長先生は絶好調!」
「つまんねえギャグ言えるってことは本調子だな」
「お?お?その反応は心配してくれたんか??」
「うるせえ。んな訳ねえだろ」
その反応にくくと喉を鳴らす。
なんや、左馬刻と煙草吸うのも久しぶりやわ。
言わなくても分かってる。
左馬刻は憎まれ口を叩くわりに誰よりも人情に熱いやつや。
「…………簓。お前何があった」
「…………何が?」
「しらばっくれんな。沈めんぞ」
「おお怖っ。大将不機嫌でどないしょー?」
どこからか取り出されたマイクに、あ、待ってや。そら狡いわとお手上げポーズを取った。
相変わらず俺の周りには喧嘩っ早いのしかおらんくて参るわ。
「んー………恋煩い?」
「はあ?テメェふざけんのも、」
そう、いつもの俺ならおふざけや。でも、
「ふざけてへんよ」
「……………まじかよ」
「ちょーーーーまじ」
今回は大真面目も大真面目。その表情に左馬刻すら息を呑む。
こんな天気がええ日、Aちゃんの家だとようベランダで吸っとったなあ。
「ふっつーの女の子や。どこでも居りそうな普通の女の子」
「派手な女がタイプだったんじゃねえのかよ」
「理想と現実はちゃうねん」
「………簓が恋愛とか想像つかねえ」
「その言葉でっかいリボンつけて送り返したるわ」
タイプやない。
そんなん言われんでも自分が一番よう分かっとる。
でもびびびと電流が全身に走ったあの瞬間。
理由なんて後付けでええとさえ思った。
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るる(プロフ) - たらいさん» たらい様コメントありがとうございます。大好きなんて言って頂いて本当に嬉しいです!ぜひ次の更新も楽しみにお待ち下さい。応援宜しくお願い致します! (2021年11月14日 7時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
たらい - るるさんの話大好きです!いつも楽しみにしてます!! (2021年11月13日 18時) (レス) @page46 id: 3170693201 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。本日更新分で更に辛い展開かもしれません…。これが普通なのに腑に落ちない二人です。また二人が出逢える日はくるのでしょうか。作者多忙につき更新ゆっくりですが気長にお待ち下さい! (2021年11月5日 10時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - うわぁぁっ……待って辛い。夢主ちゃんとの時間は夢で終わらせられないくらい幸せなのに……空元気みたく笑う白膠木さんが目に浮かぶ。正常に戻った筈なのにモヤモヤする…… (2021年11月1日 5時) (レス) @page42 id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。お馴染みのしんどい展開ですみません…漸く帰れる可能性が出てきたのに戸惑いが隠せないですね。出会う筈のなかった二人の運命はどうなってしまうのでしょうか。乞うご期待ください。 (2021年10月17日 23時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年9月26日 1時