▼Day.36 ページ43
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「大丈夫ですか?」
「──────え。………あ、」
「こないなとこ座り込んで。落ちたら危ないで」
「いえ、ちょっと」
そう言いかけて口を閉ざす。
ちょっと?
私はなんでこんなところに座り込んで手を伸ばしているのか。
「どうしました?」
「いや……大丈夫です」
ここはどこだろう。見ず知らずの男が話す言葉は関西弁か。周りを見回すと男と同じイントネーションが耳に入る。小さく会釈し立ち上がると、テレビで見たお笑いの聖地が目に入った。
「オオサカ?」
どうして縁もゆかりもないこんな土地に。
なぜ?旅行?
だれと?一人で?
思い出せない。朧げに頭に残るのは額に残る微かな体温。
彼氏、なんていない。浮気されてまた独り身になったはず。
なら傷心旅行にでも来ていたのか。
「私、一体誰を追いかけて……?」
記憶も心もぽっかりと穴が空いている。
言い知らぬ違和感にぶるりと身体が震えた。
まるで全てを攫っていくように、風は強く吹く。
例えば私に彼氏がいて、それもまた同棲していたとしよう。
朝は欠かさず起こしてくれて、私の帰りを待って夕飯を食べてくれ、たまの休みには一緒に出かける。
スーパーの惣菜を批評してみたり、仕事の愚痴を相談してみたりする。
彼の服のセンスが理解できない時もあったりして、どうでもいいことで言い合いをすることもあるだろう。
いつもなら口の上手い彼に言い負かされてしまうが、本気の喧嘩だと彼も子犬みたいにしゅんとする。
それはそれで可愛いとか思うのかな。
リードされる恋愛はすき。
でもたまに情けない顔を見せられると母性本能も擽られる。
結局惚れた弱みかと思ってしまう訳で。
平凡な私でも誰かのトクベツになれれば良かった。
それが恋愛という一つの手段で良かった。
好きな人とのトクベツな時間がいつまでも続けば良かった。
「旅行に行って来たんだって?」
「ええ。大阪のほうに…」
「大阪かー!俺も行きたいなあ」
「美味しいもの沢山ありましたよ」
隣の席の先輩はお土産をひとつ開けると美味しそうにそれを口にした。
自分で買ってきたけど、私も食べようかな。
他人が食べてるものってどうにも美味しそうにみえる。
「誰と行ってきたの?」
「え?」
「あ、もしかして例の…」
「……いえ」
これは違和感だ。
大阪から戻ったあの日から何度も感じている。
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るる(プロフ) - たらいさん» たらい様コメントありがとうございます。大好きなんて言って頂いて本当に嬉しいです!ぜひ次の更新も楽しみにお待ち下さい。応援宜しくお願い致します! (2021年11月14日 7時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
たらい - るるさんの話大好きです!いつも楽しみにしてます!! (2021年11月13日 18時) (レス) @page46 id: 3170693201 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。本日更新分で更に辛い展開かもしれません…。これが普通なのに腑に落ちない二人です。また二人が出逢える日はくるのでしょうか。作者多忙につき更新ゆっくりですが気長にお待ち下さい! (2021年11月5日 10時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - うわぁぁっ……待って辛い。夢主ちゃんとの時間は夢で終わらせられないくらい幸せなのに……空元気みたく笑う白膠木さんが目に浮かぶ。正常に戻った筈なのにモヤモヤする…… (2021年11月1日 5時) (レス) @page42 id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。お馴染みのしんどい展開ですみません…漸く帰れる可能性が出てきたのに戸惑いが隠せないですね。出会う筈のなかった二人の運命はどうなってしまうのでしょうか。乞うご期待ください。 (2021年10月17日 23時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年9月26日 1時