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(あかん、止まらへん)
「ささ、ら、さ」
「A、もっと呼んで」
あー、俺のあほんだら。
頭じゃどうやって言い訳するか考えとんのに口から勝手に強請る言葉が出てきよる。
小さな口から溢れる名前は恐らく抵抗の意。
それでもええ。
合間に吸い込む酸素さえも奪い去ってしまえば、一層虚ろな黒い瞳に余裕の無い自分の顔が映っていた。
「なあ、ささらでええから」
「……も、っ、ふっ」
「呼べんくなる前に、ここにいる間に」
「さ、ささら、」
「ん。」
口角から伝う唾を舐めとってそのまま口付ける。
名前を呼ばれる度、身体がびくびくと反応しておかしゅうなりそうや。でもこれ以上進む気はない。
キスより先に進んでまったらたぶん俺、
「ええ子や」
(良い思い出になんてしたらんわ)
はよ生まれ変わりたくて死んでまう気がする。
「……っ、」
「怒っとる?」
「…どういうつもり」
やっと離れて彼女は息を吸うのにも必死なのに、ちっとも呼吸が乱れていない自分に少し落胆した。
我儘に愛情表現したって冷静な顔を崩すくらいしか出来ない。
自分は年上やって、期待なんかしないって、
必死に可愛い脳味噌で考えてる。
「赤ずきんちゃんみたいや」
「は?」
「森ん中でこない小さな手で狼から逃げようともがいて」
分からへん。
この手を離すんがええんか、離さへんがええんか。
「それが煽ってんのも知らへんのや」
「──────、」
「────これは俺が貰おとく」
耳元で囁いて白い花弁を抜き取るとAちゃんが小さく声を出した。
どれくらい時間が経ってたんやろ。
太陽が月に代わって、空には星がぎょうさん浮かんでいた。
「オオサカに帰りたい」
抱きすくめた身体が怯えるように頷くのを確かめると漸く息が出来た。
どこまでも二人で落ちて堕ちて、
いつか同じ世界に生まれ落ちて。
そんな夢すら見せてくれへんこのセカイに、心底嫌気がさすわ。
▽いざ最後の旅路へ
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るる(プロフ) - たらいさん» たらい様コメントありがとうございます。大好きなんて言って頂いて本当に嬉しいです!ぜひ次の更新も楽しみにお待ち下さい。応援宜しくお願い致します! (2021年11月14日 7時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
たらい - るるさんの話大好きです!いつも楽しみにしてます!! (2021年11月13日 18時) (レス) @page46 id: 3170693201 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。本日更新分で更に辛い展開かもしれません…。これが普通なのに腑に落ちない二人です。また二人が出逢える日はくるのでしょうか。作者多忙につき更新ゆっくりですが気長にお待ち下さい! (2021年11月5日 10時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - うわぁぁっ……待って辛い。夢主ちゃんとの時間は夢で終わらせられないくらい幸せなのに……空元気みたく笑う白膠木さんが目に浮かぶ。正常に戻った筈なのにモヤモヤする…… (2021年11月1日 5時) (レス) @page42 id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。お馴染みのしんどい展開ですみません…漸く帰れる可能性が出てきたのに戸惑いが隠せないですね。出会う筈のなかった二人の運命はどうなってしまうのでしょうか。乞うご期待ください。 (2021年10月17日 23時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年9月26日 1時