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「迷子になったの?」
「ふっ、くっ、お、お母さんが見つからないの」
「あらあら。いらっしゃい、お姉さんと一緒に探しましょう」
綺麗な人だった。
まだ小さい双子の黒猫を抱えて、か細い声で声をかける。色白な手で頭を撫で生和な笑顔で私を慰めてくれた。
「彼岸花に見惚れちゃったのね」
今の私と同じくらいの年だろうか。黒猫の片割れを私に託し、手を繋いで真っ赤な絨毯を歩く。
幼い私でも分かるくらいどこか儚げな女性だった。
「名前は?」
「A…」
「素敵な名前ね」
「おねえさんはよーせいさん?」
「よーせい?ふふっ、そうね。妖精さんかな」
彼女はそう言って笑うとたわいの無い話をし始めた。
ここから見える景色は絵画みたいだとか、今日は身体の調子が良かったとか、普段はあそこの白い家に住んでいるとか。
幼い私がどこまで彼女の話を理解していたのかは分からない。
「にゃんこ…」
「この子達ついこないだ生まれたばかりなの」
「ふふっ…かわいい。赤ちゃんだ」
「そうね。喉まで鳴らして、よく懐いてる」
ただ手の中の柔らかい毛並みに擦り寄ると酷く安心したことは覚えている。
「いい?何でも終わりは突然。
だから大事な人の手は絶対に離しちゃ駄目」
「……ごめんなさい」
彼女はしゅんとした私の顔を見ると、立ち止まり視線を合わせゆっくりと口を開いた。
「…お姉さんもね、昔凄く悲しい思いをしたの。
だからAには同じ気持ちになって欲しくないな」
物悲しい表情で一瞬目を伏せる。
そして小指を絡ませると、約束ねと小さく微笑んだ。
「──────、」
「あら?」
どこからか聞こえる私の名前。
母の声だと言うことはすぐにわかった。
「お母さん達だ…!」
「ふふ、もう大丈夫ね。良かった」
するりと立ち上がると彼女は私の手をそっと離す。
「ねえA、猫は好き?」
「うん…!可愛いもん!」
「じゃあ私の代わりにその子を育ててくれない?
お姉さんと出会えた記念」
にゃあ。幼いクロの大きな瞳。
「うん…っ!私この子のおねえさんになる!」
「ありがとう。さあ、もう行かないと」
「あ!おねえさん!」
来た道を振り返り帰ろうとする彼女。
不思議そうに首を傾げると、私は慎重にポケットからそれを差し出した。
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るる(プロフ) - たらいさん» たらい様コメントありがとうございます。大好きなんて言って頂いて本当に嬉しいです!ぜひ次の更新も楽しみにお待ち下さい。応援宜しくお願い致します! (2021年11月14日 7時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
たらい - るるさんの話大好きです!いつも楽しみにしてます!! (2021年11月13日 18時) (レス) @page46 id: 3170693201 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。本日更新分で更に辛い展開かもしれません…。これが普通なのに腑に落ちない二人です。また二人が出逢える日はくるのでしょうか。作者多忙につき更新ゆっくりですが気長にお待ち下さい! (2021年11月5日 10時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - うわぁぁっ……待って辛い。夢主ちゃんとの時間は夢で終わらせられないくらい幸せなのに……空元気みたく笑う白膠木さんが目に浮かぶ。正常に戻った筈なのにモヤモヤする…… (2021年11月1日 5時) (レス) @page42 id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。お馴染みのしんどい展開ですみません…漸く帰れる可能性が出てきたのに戸惑いが隠せないですね。出会う筈のなかった二人の運命はどうなってしまうのでしょうか。乞うご期待ください。 (2021年10月17日 23時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年9月26日 1時