▼Day.29 ページ25
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「ささら、さ、んっ」
追いかけてとは言ったけど、まさかあんなに足が速いなんて。おまけに上り坂だし運動不足の会社員には辛いものがある。
彼の身体能力には驚かされてばっかりだ。
「居た、簓さん、っ…！」
漸く見つけたいつもの背中。
よろける様に彼の服にしがみつけばその視線の先に一人の人間が立っていた。
(白い屋根の家)
ぞくり
「！…っ、」
「Aちゃん？」
なんだ？私はここを知っている？
勝手に手が震え血圧が下がって、息を切らした私の耳に簓さんが何度も名前を呼んで。
「入りなさい、休む部屋なら余るほどある」
じゃりと地面が鳴る音で先程の老人が近づいてきたのが分かった。彼は知らない。幼い記憶にもいない。
「ほら。いらっしゃい」
クロにそっくりな黒猫とその言葉だけが私の記憶を呼び起こす。
「ここなら風通しもいいからすぐ良くなるよ」
「Aちゃん、暑ない？大丈夫？」
「うん…立ちくらみしただけだからすぐ治ると思う…」
「仕事詰め込みすぎたんや。今日まで随分気張ってたからなあ」
ベッドに横になると簓さんの扇子が弱い風を吹かせた。先程よりは呼吸がしやすく顔に当たるそれに体温が戻ってくる。
「ご迷惑をお掛けしてすみません」
「構わないよ。少し休みなさい」
「せや、ちょーっと寝とき。あとで起こしに来るわ」
にゃあ。
「！…クロ、」
「ふふっ、コイツが簓さんの代わりに居たるって」
「なんだい。君には妙に懐いているね」
「名前は？」
柔らかい黒毛を私の頬に擦り寄せて喉を鳴らした。
「ノワールだよ。娘が付けた名だ」
「どういう意味や？」
「フランス語の黒」
「ははーん…クロより洒落てんけど同レベ…んごっ」
「黙りなさい」
ツッコめんなら心配いらへんなと簓さんはくつくつと笑う。
老人と部屋をあとにしようと立ち上がる彼の背中に私は口を開いた。
「ねえ、」
(さみしい)
細い目が私を映す寸前。口パクで象った言葉。
「ん？どした？」
「………んーん、なんでもない」
首を傾げながらも彼はそのまま部屋を出る。
部屋に響く猫撫で声と風の音。首元に当たるノワールが温かくて縋るように目を瞑ることにした。
(行かないで、なんて言えないよ)
ああ、どんどん心に穴が空いていく。
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るる(プロフ) - たらいさん» たらい様コメントありがとうございます。大好きなんて言って頂いて本当に嬉しいです！ぜひ次の更新も楽しみにお待ち下さい。応援宜しくお願い致します！ (2021年11月14日 7時) (
レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
たらい - るるさんの話大好きです！いつも楽しみにしてます！！ (2021年11月13日 18時) (レス) @page46 id: 3170693201 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。本日更新分で更に辛い展開かもしれません…。これが普通なのに腑に落ちない二人です。また二人が出逢える日はくるのでしょうか。作者多忙につき更新ゆっくりですが気長にお待ち下さい！ (2021年11月5日 10時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - うわぁぁっ……待って辛い。夢主ちゃんとの時間は夢で終わらせられないくらい幸せなのに……空元気みたく笑う白膠木さんが目に浮かぶ。正常に戻った筈なのにモヤモヤする…… (2021年11月1日 5時) (レス) @page42 id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。お馴染みのしんどい展開ですみません…漸く帰れる可能性が出てきたのに戸惑いが隠せないですね。出会う筈のなかった二人の運命はどうなってしまうのでしょうか。乞うご期待ください。 (2021年10月17日 23時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：るる | 作成日時：2021年9月26日 1時
