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「俺もこないだりょこー行ったで!」
「あら。どこに行ってきたの?」
「ゆうえんち!おかんが連れてってくれた!」
「いいなあ。お姉さんも行きたいなあ」
「じゃあ今度一緒に行こうや!な!ええやろ!」
こんな可愛い知り合いが居るとは知らなかった。彼の温かい手につい頬が緩んでしまう。
子供は素直で羨ましい。言いたいことに口をつぐんでしまうのは大人の悪いところだもん。
「ねえ、もしお兄ちゃんが居なくなったら君はさみしい?」
「え?兄ちゃんどっか行くの?」
「例えばの話だよ」
うーん、と喉を鳴らす。そしてちょっとすると困った表情で顔を上げた。
「うん。めっちゃさみしい」
こんな小さな子供にまで寂しい思いをさせて。簓さんの化け物じみたコミュニケーション力は本当に恐ろしい。あの毒気のない笑顔が周りの人間を巻き込むのかな。
そっか、と少年の頭を撫でようとすると今度は彼が声を出す番だった。
「なあ、姉ちゃんは?」
「私?」
「姉ちゃんは兄ちゃんがおらんくなったらさみしい?」
「──────、」
さみしい。
その言葉を発したら戻れなくなる気がして、彼との関係が分からなくなる気がして、
(私は簓さんのなに)
答えの見つからないものを聞いてしまいそうで。
ふと視界の端に簓さんの姿が見える。
何かを彼女に尋ねると、くしゃりと前髪を掴んでへらりと笑った。誰もが心を許してしまいそうな柔らかい表情。
「────そうだね」
子供相手、曖昧に答えることもできる。
だけど何故か曖昧にしたくない。
「お姉さんも簓さんが居ないとさみしいな」
本人の前では言えない本音がするりと口から出た。
子供の力って本当に凄い。
私の視線に気づいた簓さんは手を振ると、嬉しそうに歯を見せてAちゃんと名前を呼んだ。
(それでも待っている人達のために、貴方は帰らなきゃいけないから)
「母ちゃん!今度姉ちゃんと遊園地行ってもええ!?」
「は!?俺も行ってへんのに何言うてん自分…!!」
「ちょっと喧嘩しないでよ、大人気ない」
「ええけどまずは簓さんがお姉さんと行ってからね。順番」
「そんな気にしないで、」
「俺が気にする」
「簓さんは黙って」
「えー…なんで順番こなん…」
「それは簓さんな…」
「あー!!??Aちゃんは耳塞いどき!!!
ほらもう行くで!!二人とも!ほなな〜!!」
▼曖昧マインド
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るる(プロフ) - たらいさん» たらい様コメントありがとうございます。大好きなんて言って頂いて本当に嬉しいです!ぜひ次の更新も楽しみにお待ち下さい。応援宜しくお願い致します! (2021年11月14日 7時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
たらい - るるさんの話大好きです!いつも楽しみにしてます!! (2021年11月13日 18時) (レス) @page46 id: 3170693201 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。本日更新分で更に辛い展開かもしれません…。これが普通なのに腑に落ちない二人です。また二人が出逢える日はくるのでしょうか。作者多忙につき更新ゆっくりですが気長にお待ち下さい! (2021年11月5日 10時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - うわぁぁっ……待って辛い。夢主ちゃんとの時間は夢で終わらせられないくらい幸せなのに……空元気みたく笑う白膠木さんが目に浮かぶ。正常に戻った筈なのにモヤモヤする…… (2021年11月1日 5時) (レス) @page42 id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメントありがとうございます。お馴染みのしんどい展開ですみません…漸く帰れる可能性が出てきたのに戸惑いが隠せないですね。出会う筈のなかった二人の運命はどうなってしまうのでしょうか。乞うご期待ください。 (2021年10月17日 23時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年9月26日 1時