居候がおりまして。ver.2【白膠木簓】

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じりり。焦げ臭い匂いで現実に引き戻される。
虚しさが目の前を通り過ぎて思わず顔を顰めた。




(欲しいもんほど手に入らへんもんやな)




相方も、笑いも、平和も、勝利も、好きな子も。


難儀な世界やわ、と頭を掻けば自然と顔が綻ぶのが分かった。ええ加減自傷的な笑みが顔に貼り付いて離れなくなってまいそう。





「簓さんっ」





この声は。きょろきょろと辺りを見回してみると、ベランダの下に淡い影が見えた。





「Aちゃん」





寝て起きたらもう会えへんかもって不安になる。





「煙草吸ってたの？」
「せやで。今日は帰るの遅かったなあ。忙しかったん？」
「うん。あと溜まってた仕事片付けてきたの」





仕事や恋愛の愚痴も聞けんかもって寂しくなる。





「そうか。遅くまでお疲れさん」
「ありがとう。ねえ、ご飯食べた？」
「まだやでー」





スーパーの惣菜の味に議論することもなくなるかもって悲しくなる。





「はよ上がってきて。簓さんお腹ぺこぺこやわぁ」
「たまには食べてきてもいいのに」

「Aちゃんと一緒がええねん」
「また適当なこと言ってー…」



(嘘やないよ。ついでにAちゃんも食いたいし)





心の中で本音を呟くことも、





「今日のごはんなに？」
「ふふっ、よくぞ聞いてくれた…！」

「おお…！？」
「じゃーん！」





彼女の行動一つにどきどきすることも、





「特上寿司買ってきた！！」
「ああ！それこないだ食いたい言うてたやつ！！」

「半額だったので奮発しました！」
「さっすがAちゃん！！」

「崇め讃えなさい！」
「ははーっ！！」





笑顔に触れたいと思うことも、





「ということで簓くん、お皿の用意を」
「はっ！仰せのままに！！……くくっ」

「ふふっ、ちょっと笑わないでよ」
「Aちゃんも笑てるやん」

「だっていい大人が二人で漫才してると思ったら可笑しくて…！」
「ははっ！芸人潰しやでそれ！」





全部なくなったらと思ったら怖あて怖あて。





「じゃあ宜しくね。簓さん」
「おん。転ばんように気ぃつけや」

「ちっちゃい子じゃないから大丈夫でーす」
「アホ。寿司の心配や」
「うわ。あとで覚えときなさいよ！」





消えた影を迎えて、今日はいつも通り笑っておかえりって言えるやろか。






「ああ…ほんまに、めっちゃ好きやわ。


─────勘弁してや、もう。」






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