居候がおりまして。ver.2【白膠木簓】

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「えっと…どこだっけ」




カゴに玉ねぎ人参豚肉じゃがいも。あとはルーか。
やっぱり今日の夕飯はカレーに決定。簓さんは甘口派かな。




「私は断然辛口派だけど…」




居候に気を遣うつもりはない。でもどこか彼の顔が思い浮かぶ。気がつけば簓さんを基準に物事を合わせてしまう自分に笑いが込み上げてきた。



泣いたり笑ったり怒ったり、簓さんみたいに表情豊かな人はあまり周りに居なかったな。





(彼氏じゃないのに、)





私の生活に簓さんが溶け込んでいる。





「……、なんか恥ずかしくなってきた」


「あ、Aちゃんおった」
「！？さ、ささらさん！？」
「声上ずっとるで」





ティッシュ一個でええんやろ？と首を傾げた男に何度も頷いた。





「せや。肉は牛な」
「え。高いから無理だよ」


「オオサカは牛肉なん」
「居候なんだから少しは遠慮しなさい」


「ここまできたらもう同居人やろ」
「家賃払え」


「ふはっ、そら勘弁」

「なんでやねん」

「！」





全く簓さんと一緒に居ると彼のペースに巻き込まれて時間が掛かる。早く買い物終わらせて風呂掃除しないと。


そう思い見つけたカレールーをカゴに入れると、後ろから変な声が聞こえてきた。





「ちょ、それ…ふふっ」


「あれ？甘口の方が良かった？」

「んーん、中辛ならええよ。
それよりAちゃん気づいてへんの？」


「何を？」

「ははっ、めっちゃ自然やったもんなあ」





自然？一体何が。

すると急に腕に掛かっていた重さがなくなる。






「関西弁うつっとるで。お揃いやん」


「な…っ！？」






これは溶け込んでるなんて甘いものじゃない。

侵食されている。

"ぬるでささら"という一人の男にじわじわと。





「簓さんもどきっとしたわ。

でもAちゃんのそれ、めっちゃ好き」





どきり。うるさい。変な音。顔が熱い。


簓さんのゆるゆるの笑顔に動いた心臓の音が耳障りだ。
可愛いかったからあとでもっかいな、って言われたって、ひょいと買い物カゴを代わりに持たれたって。




(いや、簓さんにきゅんとするなんて…！)




ないない！年上の私が、年下の、ましてや簓さんに！

これは疲れてるだけ！！そうだきっとそう！！





「………っ、」





でもそんな浮ついた気持ちは否定できたって、あの夜、帰らなきゃいいのにと少しでも思った自分を、私は未だに否定出来ないの。



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