居候がおりまして。ver.2【白膠木簓】

. ページ11

.





「─────できるわけないやろぉ……っ……！」





顔を隠して小声で叫べば、アホぉと情け無い声が出そうになった。


可愛くてしんどいってなんやねん。24年生きてこんな経験したことない。ナイスバディな姉ちゃんにあざとく誘われる方がずっとマシや。




「返せや、俺のオーダメイド」
「んんー…」
「んんやないねん…ったく、」




奪い取ろうとしたジャケットは程よく温い。気を利かせて天日干しでもしたんかな。傾いた日差しを避けようと更に顔を擦り寄せたのを見て、思わず変な声が出た。



彼女の場合、狙ってへんから余計タチが悪い。心臓にも悪い。寿命も十年は縮んだ。簓さんを早死にさせたいんかこの女。




「ん…簓、さん、？」

「あ…起きてしもた？」




少し残念に思ったけど敢えて知らんぷりと顔を逸らした。寝ぼけた顔がいつもよりとろんとしてどきんとしたんやもん。





「な、なあそれ」


「あぁ……ごめん、薬飲んだら眠くて」
「た、体調は？絶好調？」


「ん、ほどほどに…



って、今のギャグだった？」





呑気に欠伸をしてくすりと笑う。声が震えた。



乱れた髪。

力なく微笑む様子に心臓の高鳴りが治らない。


触れたい。触りたい。襲って、キスして、噛み付いたら、俺のもんに、なんで、なんで。



なんで、ここにいるのに。






「若いんだから親父ギャグはもう…」



ぽたり



「え？」


「へ？」






握った拳に一粒濡れた感覚。


なんで、と微かな声が耳に触れた。






「簓さん、泣いて、」


「─────っ！」
「…っ！？」



どたんっ






反射神経は左馬刻に負けへん。

ポジティブさは空却に負けへん。

一郎より力が弱くても、口で勝るから困らへん。





「うっ、ちょ、」

「か、買いもん…っ！！」

「は…！？んぐっ、」





力づくで抑え込んだ口、飛び出た声に可愛げはない。

でも涙を拭う余裕作るには十分や。





「買いもん、行こ。俺が今日はメシ作ったるから、っ」





苦しそうに呼吸したって許さへん。

AちゃんAちゃん。

俺泣いてへんよ。泣いてるわけないやん。





「せやから頼む。何も、何も言わんといて」





触りたない。って思えば思うほど、下敷きになったAちゃんの息遣いがまざまざと俺の手を煽ってくんねん。



▽情緒不安定


.

▼Day.24→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す