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「…お節介でもええねん。でもそれ、
今の簓さんには結構堪えるわ」
俺はAちゃんに幸せになってもらいたいだけなんに。
彼がそんなことを呟いていたなんて、家を出た私は知る由もなかった。
思えば今までよく同居していたと思う。
性別も性格も、住んでいた世界も違う私達が共同生活を続けられる可能性なんていくつもない。元々あり得ないことだったんだ。
今日、私は初めて簓さんと喧嘩した。
「実は今重要なプロジェクトを任されていてね」
「へぇ、凄い仕事をされてるんですね」
「そう!それで今度は、」
相槌を打っておいて彼の話は右から左へ流れて行く。だって自慢話ばっかりなんだもん。雰囲気の良いレストランのご飯がちっとも美味しく思えない。
「夜景が綺麗な所を選んだんだ。どうだったかな?」
「とても素敵です」
愛想笑いは得意だ。
悪い人ではない、でも合うかどうかは別物。
それに頭の中をぐるぐると別な言葉がずっと回っている。
(言い過ぎたな、)
簓さんは心配してくれただけだったのに、鍵を投げつけるなんて悪いことをした。あれではまるで出てけと言ったようなもの。
でも出て行くなら私が止める理由なんてどこにもない。
だって元々居ない筈の人だったんだもん。
(帰ったら居ないかも)
そう思ったら途端に不安に駆られる。
彼は面倒な居候だけど悪い人ではなかった。この男みたいに自慢することもなかったし、私に愛想笑いさせることもなかった。
「ねえ、この後なんだけど」
「あの、」
ただひたすらに優しくて、可笑しくて、普通の私と一緒に居てくれた。
がたん。椅子が音を立てたのはすぐのことだった。
ごめんなさい、その言葉と同時に顔を上げる。
「待たせてる人がいるので帰ります」
何回コールをしただろう。走るのも久しぶりだ。
あの男とは二度と会わないと思う。テーブルに置いた紙幣にプライドを傷つけたかも。でも、今の私が知ったことではない。
ガチャ
「…っ、ただいま…!!!」
いつもの返答がない。
パンプスを揃えるのも面倒で、何かに掻き立てられるようにリビングの扉を開けた。
「簓さん…!ごめん、私酷いこと言って、!
…あれ?」
▼そこにあったのは静寂と暗がりに光る彼の携帯だけだった
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るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメント有難う御座います。お互いに究極の選択ですね…!ただの同居人ならよかったですが、関係が変わるにつれて感じるところもいっぱいある二人です。これからの展開を楽しみにお待ちください!今後も応援宜しくお願いします。 (2021年9月19日 16時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - 白膠木さんの手が透けてる。ってことは非日常が終わるまで秒読み?実際に居候されたら生活面諸々と可哀想な家無き子どっちを取るか、その二択に迫られるのか……白膠木さんにしても仲間の所に帰るか好きな人の所にいるか、若しくは強制送還か。うわ…思ったより壮絶…… (2021年9月19日 5時) (レス) id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメント有難う御座います。MCD時代なので普段より幼く見えたなら良かったです!今回は年上設定なのでそんな新しい一面もと思って書きました。こちらこそいつも読んでくださって有難う御座います!生きる活力充電してくださいね!今後も応援宜しくお願いします。 (2021年8月16日 21時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - 何だろ………白膠木さんが幼く見えてきた……初めて選んでもらった服を大事にする所とか!夢主ちゃんの選ぶ服センス良さそう!いつも更新ありがとうございます!!毎日の生きる活力となっております!これからもよろしくお願いいたします!! (2021年8月16日 2時) (レス) id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - Miaさん» Mia様コメント有難う御座います。そんなに喜んで頂けるなんて大変恐縮です。簓さん推しが増えたなんて書き続けている甲斐があります!!私も更新頑張りますのでMia様もバイト頑張ってください。我が家の簓さん共々今後とも宜しくお願い致します。 (2021年8月12日 19時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年8月6日 10時