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「なあ、それ、どういう意味で言うてる…?」
彼の足元に落ちた本。
簓さんの目が開いてる。
真ん丸い瞳は驚いたような、悲しむような、まずい。地雷を。
私が違うと否定したのと彼が立ち上がったのは同じタイミングだった。
「あ、ど、どういう意味って…!」
「いつものはよ帰れ言うてるのと同じ?」
「えっと、それは、」
「それとも帰らへんでっちゅーこと?」
みしり。近づく距離に合わせて床が鳴る。
でも私の後ろにはテーブルがあってこれ以上下がれなくて。
「それは早く帰ってほしいけど…!」
「けど?」
「けどというか、それはずっと言ってて…っ」
三メートルは離れていた距離が徐々に詰められ、気がつくと手を伸ばせば届く距離に簓さんがいた。
待って。それ以上近づかないで。
そう思ったって私の願いは虚しく散る。
「ほ!ほら、戻ったらまたその、ラップバトルしなきゃ…!」
「せやなあ。こっちの方が平和やしなあ」
「でしょ!わざわざ危険な場所に帰りたいっていうのも…!」
「Aちゃん。それほんまに言うてる?」
「………っ!」
両サイドに逃げ場を無くされるように手を突かれた。
昔束縛が酷かった彼氏に同じことをされたがあれとは違う。
あの時は命の危険を感じて殴り飛ばせたけど、
「────教えてや、Aちゃんはどうしてほしい?」
普段よりもずっとずっと低い声色に硬くなる身体。
そんな顔されたら私だって戸惑う。
そんなまるで好きな人を見るような真剣な顔。
「どうしてって、」
耐えきれず目を瞑り拳を握った。
帰って欲しいに決まってる。だって簓さんが居るせいで生活費も掛かるし、一人の時間も取れなくて不都合ばかりだ。彼が元の世界に戻れば、私はまた平凡な毎日に戻れて…
「……私は、」
急に分からなくなった。私、どうしたいんだろう。
私、簓さんに帰って欲しくないの?
「───くっ。」
「へ?」
パンっ。次の瞬間、額に衝撃。
「痛っ…せ、扇子なんてどこから…!」
「ふはっ、堪忍。つい意地悪してもうた」
「一応私家主なんですけど…!」
額を摩る私をよそに体制を戻してくすくすと笑う簓さん。
彼は先程のコーヒーカップを両手に持つと、私の名前を呼んで一言言った。
「勝手には帰らんで。約束や」
▼どっちが正解?
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るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメント有難う御座います。お互いに究極の選択ですね…!ただの同居人ならよかったですが、関係が変わるにつれて感じるところもいっぱいある二人です。これからの展開を楽しみにお待ちください!今後も応援宜しくお願いします。 (2021年9月19日 16時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - 白膠木さんの手が透けてる。ってことは非日常が終わるまで秒読み?実際に居候されたら生活面諸々と可哀想な家無き子どっちを取るか、その二択に迫られるのか……白膠木さんにしても仲間の所に帰るか好きな人の所にいるか、若しくは強制送還か。うわ…思ったより壮絶…… (2021年9月19日 5時) (レス) id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 八守葵さん» 葵様コメント有難う御座います。MCD時代なので普段より幼く見えたなら良かったです!今回は年上設定なのでそんな新しい一面もと思って書きました。こちらこそいつも読んでくださって有難う御座います!生きる活力充電してくださいね!今後も応援宜しくお願いします。 (2021年8月16日 21時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
八守葵(プロフ) - 何だろ………白膠木さんが幼く見えてきた……初めて選んでもらった服を大事にする所とか!夢主ちゃんの選ぶ服センス良さそう!いつも更新ありがとうございます!!毎日の生きる活力となっております!これからもよろしくお願いいたします!! (2021年8月16日 2時) (レス) id: e7d640d42f (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - Miaさん» Mia様コメント有難う御座います。そんなに喜んで頂けるなんて大変恐縮です。簓さん推しが増えたなんて書き続けている甲斐があります!!私も更新頑張りますのでMia様もバイト頑張ってください。我が家の簓さん共々今後とも宜しくお願い致します。 (2021年8月12日 19時) (レス) id: 5e72f07573 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るる | 作成日時:2021年8月6日 10時