居候がおりまして。【白膠木簓】

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「今日は随分長風呂だったね」


「あれ？お二人さんは？」
「もう帰ったよ。ほらちゃんと頭拭いて」




そう言って無造作に被ったタオルで二、三度濡れた髪を拭われる。いつもは烏の行水と言われるがぼーっとしとったら結構な時間が経っていたよう。




「デートは？どうだったの？」


「ああ…なんか告られた」
「え、どうしたのよそれ」




どうしたもこうしたも、Aちゃんならどっちがいいかなんて分かる癖に。





「……勿論断るしかないやん！俺ここの人間やないしっ」





自分で言ってしまえば心臓がしゅんとなる。

偽もんの笑顔。作った本人でも駄目な笑いだって分かるくらいそれは下手くそや。



こんな顔、Aちゃんに見られたくなかった。



煙草が吸いたい………のに、なんもかんも空っぽやわ。






「でも簓さんは今ここにいるよ」


「………、！ここに…？」






適度な距離から彼女は真顔で口を開く。
さっきの子みたいに可愛げがある訳でもなく媚を売る訳でもなく、その目はただ真っ直ぐに俺を映した。






「それなら簓さんの気持ちもこのセカイにあるでしょ？」


「─────、」






だから素直に自分の気持ちを話したらいいんじゃないかな。当たり前のように話した言葉はもう耳に入らなかった。

彼女は普通の女の子なのにやけに目につく。
初めはそれが新鮮に思ってるだけなのだと思っていた。



でもこれはちゃうわ。




「……煙草買うてくる」


「え？今から？雨降ってるよ」
「わーっとる」




ひったくるように鍵と傘を握りしめて家を出る。雨はさっきよりも弱まり、熱った身体を冷やしていった。





「どないしよ」





言葉と裏腹に口角は上がっていく。
隠すために当てた手すら意味をなさない。




(年上は専門外やん。まじか)




彼女の優しさが埋めていくそれは心の穴。さっきの言葉で自分が魅了されとるって十二分に理解した。



これは弟分の意地か、はたまた別なものなのか。

いや、そんなんどっちでもええ。



思わず笑いが込み上げる。

危険な橋？そんなん俺をただワクワクされるだけや。





「ふはっ、こんなんあかんでほんまにっ」





今更あの子の気持ちが分かった気がして心が震えた。

とりあえずコンビニでAちゃんにプリンでも買うて帰ろう。




たぶん俺、Aちゃんが好きになってもうてるわ。




▽異世界に恋をする


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