居候がおりまして。【白膠木簓】

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「Aちゃん」

「な、なに…今いいとこで、」




こちらも見ない白くて照らされた横顔に口角が上がる。
ホラー映画にビビる普通の女の子。



こんなんがクるとは自分でも予想外やったな。





「ほら、こっちのが安心やろ」





掴んでいた彼女の指先を掴んで自分の指に絡ませる。


彼女の手は触っただけでも分かるくらい手汗をかいていた。一瞬びくりと肩を揺らしたが、今はそれどころやないらしい。




「に、握りつぶしたらごめん…！！」

「ふはっ、それ握力ゴリラやん」
「うるさ…わっ、むりムリ無理…っ！！！！」




少し力を込められた瞬間体温が上がった気がした。Aちゃんのどきどきが伝わってきてしまいそう。


映画館が暗くて良かった。やないとにやつく口元がバレてまうわ。


















「くくっ、Aちゃんのせいで手真っ赤やわ…！」
「だからごめんって…！！クリームソーダ奢ってあげたでしょ！」




恥ずかしいからあんまり言わないでよ。彼女はそう言って顔を赤くして茶店のアイスコーヒーを飲む。結局小一時間掴まれていた左手には赤い跡が微かに残っていた。




「簓さん映画全然見てなかったでしょ」
「そんなことないで。でも映画よりAちゃんのが怖かったわ」


「うっ…しょうがないでしょ。ホラーなんて聞いてなかったんだもん…」
「可愛かったで？普段もあんなんしとったら彼氏できるんちゃう？」
「これで出来たら今まで苦労してません！」




グラスを傾ければカランと氷が鳴る音がする。
空に近いそれを最後の一滴まで飲み干した。





「たぶんな、Aちゃんは普段妙にしっかりしとるから甘えたがりの男がついてくるんや」





そう言えば彼女の喉から変な音がした。


こうやって弱いところも見せたら、ほら守りたい女の子の出来上がりや。





「もうちょい簓さんを見習って甘えることも覚えんとな」





驚いたような丸い目をして少し頬を染める。


それがまた可愛らしく見えたけど、これは気の迷いやって自分に言い聞かせることにした。



▽弟の恋愛指導


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