コード・ブルー ‐もう一人の医者‐ (ページ35)

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〔藍沢〕

普段は短く感じるフライト時間も、今は遅く、現場が遠く感じる。

あと3分程でヘリが到着する。それなのに。

いつだって、現場では予想外の事が起こる。

翔北から入った1本の連絡。慌てた様子の白石に機内の空気が更に張り詰めた。ヘッドホンを片手で押さえる名取を視界に入れながら、一つ深呼吸をして応答する。

《藍沢先生、まずい。現場で患者が急変した。》

あと少し、もう少しなのに。

僅かに手が届かないのを嘲笑うかの様に、神は悪戯に試練を与える。

《あと、どれくらいで着くの。》

「あと3分だ。」

《 3分じゃ厳しい… 》

「着くまで、どうにか持たせられないか。」

《それが、雪村さんもパニックになってるみたいで上手く伝わらな… 》

不自然に途切れた声に、眉が寄る。

「白石、どうした。」

《っ、今…A先生が…！》

―――――――――――――――――

〔A〕

何か音がする。とても眠たくて、目を開けられないけれど何かの音がする。バタバタという音、周りのあちこちから聞こえる。

なんの音なのだろう。

それにしても眠たい、何故こんなに眠たいのだろう。

それに、体がどんどん冷えている気がする。

寒い、さむい。

何故？

ぼんやりした意識の中で、人の声が聞こえる。

―――き……へ、で…！

―――バイタル下がってます！

声が意味する事を理解した瞬間、霧が晴れるように、自分の身に何が起こったのかを思い出した。寒いと感じる理由も、何処か出血しているからだろう。

そんな事よりも、ここでぼんやりしている場合じゃない。

少しだけ手足を動かしてみる、痛みは感じるものの、問題はないだろう。ゆっくりと体を起こし、軽く手を握って感覚を確かめる。大丈夫。

立ち上がった際の軽い眩暈を気にする間もなく、額から流れる血を袖で拭う。

軽いパニックに陥っている現場に、申し訳無さを感じるけれど、今やるべき事は一つだ。未だ気付いていない雪村に、普段通り声を掛けた。

『雪村、NS(生理食塩水)の用意頼む。挿管の準備も。』

「A…先生、っ！」

『NSはこっちに。自分の傷にも使う日が来るとは…』

自分の手の傷をNSで洗い流し、履き慣れた手袋をつけ挿管する。焦った様な白石の声に、漸く応答した。

『白石先生、Aです。今、挿管した。』