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〔藍沢〕



ストレッチャーを運びながら、

チラリと横にいる人物を見る。

確か、橘先生にはAと呼ばれていた。

A。聞き覚えが有る様な、気がする。

何処かで会った事があるのだろうか。

それにしても、何故此処に居たのだろう。



それに。



ICUの患者が急変する事は、そう珍しいことじゃない。

事前にカンファレンスなどで

疾患も状態も分かっていれば、

特別焦るような事態になる事は少ない。

…が、何の情報も持たず、俺達が駆け付けるまで

あの場で的確に指示を出していた。

何者なのだろう。



「A、どう見る。」



橘先生の発した言葉に藤川が驚いた様に顔を上げた。

緋山も、白石も、冴島だって、

顔には出さなくても目線でどういうことかと訴えている。

モニターから顔を上げたAは、瞬きを一つ。



『…モニターからはAF(心房細動)。
 さっき1度PAC(心房外収縮)が見られた。
 出来れば早急に手を打ちたい。』

「確か佐々木さんはこの後オペの予定だったな。
 藍沢、心外の執刀医誰か分かるか。」



橘先生の声に頭に、入っている

この患者に関する情報の中から、執刀医を引き出す。



「…心外の吉沢先生だった筈です。」



答えた直後に、オペ室のドアが開く。

空気が、より一層張り詰める。

白石の声に合わせ、患者を移す。



「移します。1,2,3」



一切表情を崩さないAを横目に、

俺は手早く手術着に着替えていく。

心臓ならば、同じく手術着を身に纏った橘先生が

主に執刀するはずだ。

心外のドクターがコンサルに間に合うかは別として、

今は目の前の命に向き合わなくてはならない。

サポートに入ろうと足を進めた時―――





「A、帰ってきて早々悪いが、手を貸してくれ。
 吉沢には俺から話そう。」





頼まれた本人は、瞬き一つを返すと

手早く手術着を身に着け始める。





「あいつ、一体何者なんだろうな。」



小声で話しかけてきた藤川に同じように小声で、

さあな、と返す。

補助に入ろうかと考えていれば、手術着を来たAが

決して大きくは無い声で告げる。



『…AFで血栓が飛んでいるかもしれない。
 脳外とCT室に連絡。』

「脳は俺が診る。CTは既に連絡してある。」



再び瞬きを一つ。



『…なら、良い。』



一言発すると、患者に向き直ってしまった。



「緊急オペを、開始する。」





いつもより、



―――静かなオペが始まった。

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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月30日 9時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
再びこなみ - 17 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
こなみ - 8 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 昴流(プロフ) - さくらさん» コメントありがとうございます!ふと思い出して書き始めたので遅くなってしまうかと思いますが、頑張ります…! (2018年7月28日 19時) (レス) id: ad54c4129e (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - 続き楽しみにしております。 (2018年7月28日 17時) (レス) id: 15bef8530f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:東雲 昴流 | 作成日時:2017年8月18日 1時

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