コード・ブルー ‐もう一人の医者‐ (ページ26)

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〔藍沢〕

ICUの温度を2度は下げたであろうAは興味を失ったようにICUを出て行った。

「こ、こわ…。」

「怒ってた？あれ怒ってたかな？！」

「馬鹿、調子に乗るからでしょ。」

ぱしん、と藤川の背を叩いた冴島はそのまま点滴を換えに行ってしまった。Aは今日からフライトだ、ホットラインが鳴ってしまえば、謝るタイミングは無いに等しい。

「…お前ら、早く謝った方が良いんじゃないか。」

「あー、俺もそう思います。Aって、意外と根に持つタイプなんで…」

そろりと寄って来た名取が、珍しく引き攣った笑みを浮かべているのだから、Aは相当根に持つのだろう。Aは怒らせるべきではない、と俺は心の片隅に留めた。

「じゃ、じゃあ、謝ってく…」

藤川がICUを出ようとした時、胸元のシーバーがヘリの出動要請を告げた。隣に居た名取が、はっとしたように処置室へ駆け出し、空気を切り替えた俺達も同じ様に駆け出した。

駆け込んだ先では既に白石とAが患者情報を聞いていた。じっと目を閉じて聞いているAは、珍しく気を張り詰めている様だ。

"――工事現場で足場が崩れ、転落したものと思われます。また、足場の一部が近くを通行していた一般人にぶつかった模様です――"

「うっわ、災難だな…」

飛べるかどうか確認を取った白石はすぐに受け入れ許可を出した。

「分かりました。受け入れます。」

ぱちりと目を見開いたAは、完全に医者のスイッチが入っているらしく、纏う空気も凛としたものに変わっていた。

『名取、雪村、行くぞ。』

「はいっ」

あの雪村ですら若干の遅れを取りながら駆けて行く。名取は珍しく真面目な様子で後を追って行った。俺達が見送った後、橘先生がやってきた。

「お、今日からAのフライトだったよな。なーんか子供を送り出した親の気分だなぁ…」

「A先生ですし、大丈夫ですよ。」

白石と橘先生の話を聞き流しながら着々と受け入れの準備を整える。高所転落なら骨折は免れない。おそらく藤川の出番だろう、もし頭部外傷があれば俺の手が必要になる。

…それにしても、今日は風が強い。

余計な被害者が出なければ良いと思いながら、出て行ったドアをちらりと見つめていた。

じわりと感じている、嫌な予感を振り払うように視線を手元に戻した。

この後、嫌な予感が当たるなんて、思いもしないままに。