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〔名取〕
やばい、煽り過ぎたと思った頃には、既に遅かった。
『…遅い。そんなんじゃ現場で役に立つ所か、邪魔になる。』
一度スイッチが入ってしまうと、Aは本当に容赦が無い。友人だろうが、後輩であろうが、目上の医者であろうが、Aには関係ない。命を救うとなると、尚更。
『現場に飛んで、仲間の足を引っ張るのだけは止めろ。現場じゃ一々指導してくれる上司はいない。自分の持っている技術だけで、患者を救うしかない。』
「そんなの…」
―――分かってる。
自分に何の技術も無い事くらい。Aが来る前、藍沢先生が救命に戻ってくる前。俺が初めて現場を目にした時、無力だと、何も出来ないと感じた。
『医者が立ち往生してちゃ、現場は動かない。』
分かっている、いや。分かっていたつもりだった。
『…無力さを嘆く暇があるなら、努力をしろ。』
擦れ違い様に掛けられた言葉が、俺の胸に刺さった。
「ほんと、容赦ねぇ…」
自嘲気味に笑った俺をAが見ていたなんて、この時の俺は知らなかった。ただ、何も言い返せ無い程、Aと実力の差を感じていた―――
「で?Aに怒られてへこんでるんだ?」
ニヤニヤして俺の周りを歩き回っているのは緋山先生。おまけに藤川先生までついてきて、やたら俺に絡んでくるけど、ここICUですから。
「いや、俺別に、へこんでませんからね?」
「名取、素直になって良いんだぞ?ん?」
「だから、へこんでませんって。」
俺は決めた。Aを煽るのは止めよう、と。
「あー、そういえば緋山先生。朝のアレ、A先生は実行してるんですか?」
それがさ、と眼鏡をくいと上げた藤川先生が一つ咳払いをする。
「さっき心外から呼ばれてたらしいんだけど…Aのやつ、"その程度ならそちらの優秀な医師で十分対応できるでしょう"って断ってたんだよ!」
「何それ、Aの真似?」
「そう、意外と似てない?無愛想で可愛げのない所とかさ!」
「あー、普段愛想のない感じね。」
Aが居るとも知らずに話を続ける2人を冷めた目で見つめる冴島さんと、奥でカルテを見ながら呆れていた藍沢先生が、小さく溜息をついた。
「…A、怒って良いぞ。」
「げっ…」
振り向いた先には、絶対零度の瞳をしたAが、じっと2人を見つめていた。
2人が口を開くより早く、Aは背を向けてICUを出て行った。
…どんまいです、緋山先生と藤川先生。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月30日 9時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
再びこなみ - 17 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
こなみ - 8 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 昴流(プロフ) - さくらさん» コメントありがとうございます!ふと思い出して書き始めたので遅くなってしまうかと思いますが、頑張ります…! (2018年7月28日 19時) (レス) id: ad54c4129e (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - 続き楽しみにしております。 (2018年7月28日 17時) (レス) id: 15bef8530f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:東雲 昴流 | 作成日時:2017年8月18日 1時