コード・ブルー ‐もう一人の医者‐ (ページ14)

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〔A〕

あの後、昼休憩ギリギリまで女子会(事情聴取)を体験した。
久しぶりに長時間、
話をしたせいか疲れてしまったけれど。
存外楽しめたと言うか、自然体で居られたと言うか。

今までの経験上、変に気を遣われて
かなり面倒な事になると思っていた為に
少し呆然としてしまった。

"勤務外は名前で呼ばせてね"なんて。
…初めて言われた。
不覚にも嬉しいと思って、じわりと頬が熱を持った。

ふるふる、と数回頭を振って、
良い加減仕事に頭を切り替えようと努力していると、
しゅん、と肩を落とした藤川先生と
渋々と言った様子で歩いてくる藍沢先生の姿。

どうしたのだろうと思って立ち止まると、

一度、藍沢先生を見た藤川先生が
申し訳なさそうに口を開いた。

「あのさ…さっきは悪かった。
　緋山と白石に物凄い怒られてさ…」

藤川先生がちらりと振り返った先には
じっと彼を睨む二人の姿が。

救命の女性は怒らせるべきではない、
と肝に銘じておこう。

『…その事だけど気にしないで。
　今まで通り接してくれた方が、正直助かる。』

はぁ、と安心したように溜息を吐いて
ポン、と藍沢先生の肩に手を置く。

「なんだぁー、どうしようかと思ってたんだよ。
　白石と緋山には怒られるし…な。藍沢。」

「…俺を巻き込むな。」

置かれた手をスッと外して病棟へ向かう
藍沢先生と藤川先生を見送って振り向くと、
胸ポケットのPHSが鳴った。確認すると、心外の文字。

『はい。…すぐ向かいます。』

急変した患者の心臓の手術は、
全くといって良い程猶予は無い。
エレベーターを待っている時間すらもどかしくて、
心臓外科の階に向かって階段を駆け上がる。

久しぶりに感じる疲労感を懐かしく感じる暇もなく
手早く手術着を身につけ、状況把握に努める。

『AS(大動脈弁狭窄症)か…弁置換術ですね、
　ヘルプ入ります。』

すぐに始まった緊急オペ
置換術自体は久しぶりだけど、
焦る必要は無い。
自分の経験と、知識を信じて行うのみだ。

「大動脈、切開します。
　A先生、人工弁の準備を。」

『はい。針と糸下さい。』

切開と同時にこちらも準備を進めていく。
一時的に心臓を止める必要がある手術では、
止めている時間が短い程患者に負担は掛からない。

心臓の手術は常に時間との勝負。
焦りそうな時程冷静に。

目を閉じ、一度深く息を吐く。

息を吸いながら目を開いた。

さあ、勝負だ―――