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〔藍沢〕
Aに意識が戻って、急変した患者の治療にあたっている――
その情報を聞いた名取は、一先ず安堵している様に見えた。けれど、通信を切った俺は下降し始めたヘリの中から見えたフライトスーツに、眉を寄せた。
―――――――――――――――――――
ヘリを飛び出して駆けつけた先で聞こえてきたのは、少し掠れたAの声。先導した救急隊員の先で、凛とした背と目付きは変わらないまま、現場をへの指示を出しながら患者のバッグを揉む姿があった。しかし、その額からはまだ血が流れ、時折雪村がそっとガーゼを当て、自分の処置をした様子は殆ど無い。
『…ので、現場から人をもっと遠ざけて下さい。それから、』
「巻き込まれた子供もこちらに。一度診察します。」
これ以上大きな声を出させる訳にはいかない、と話の先を遮って患者に目を向ける。気付いていなかったのか、一度瞬きをしたAは、ぽつりと俺の名を呼んだ。
『…藍沢、先生。』
「あまり大声を出すな、頭に響いているんだろ。…後で俺が診る、拒否権は無い。」
一瞬で真一文字に引き結ばれた唇と、鋭く細められた両目からは"嫌だ"と訴えられているが、そんな事気にしている場合じゃない。引く訳にはいかないと互いに鋭く睨み合って数秒、名取の一言で決着が着いた。
「今回はAが悪い。っつーか、Aだって十分怪我人じゃん。ヘリ搬送は俺が行くんで。」
「嗚呼、怪我人に患者は任せられないからな。」
ぐうの音も出ないといった様子で居心地が悪そうに視線を外したAと、やれやれといった様子でヘリに患者を運んでいく名取と"藍沢先生にしっかり診て貰って下さい"と釘を刺していった雪村。よく見ればAは血が滲むほど唇を強く噛んでいて、
「ここで穿頭する、サポート出来るか。」
『…当たり前。』
ぱちり、と一つ瞬きをしたAはスイッチが切り替わったかの様に手際良く準備を始めていて。こんな状況だというのに胸が高鳴っている。専門は心臓だろうが、きっとAは脳のオペだって出来るのだろう。それ故に、こちらから細かな指示が無くても次にしたい事が分かっている様に、滞りなく処置が進む。
「…見えた。」
血腫を無事に取り出した所で、目を合わせて小さく頷き合う。そして、Aの手が生み出していく糸のワルツは、静かに止まることなく、滑らかに滑っていく。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月30日 9時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
再びこなみ - 17 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
こなみ - 8 遥→はるか (2018年8月16日 9時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 昴流(プロフ) - さくらさん» コメントありがとうございます!ふと思い出して書き始めたので遅くなってしまうかと思いますが、頑張ります…! (2018年7月28日 19時) (レス) id: ad54c4129e (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - 続き楽しみにしております。 (2018年7月28日 17時) (レス) id: 15bef8530f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:東雲 昴流 | 作成日時:2017年8月18日 1時