コード・ブルー ‐もう一人の医者‐ (ページ22)

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〔A〕

ICUの患者は問題なく、バイタルも安定していた。もう一度医局に戻ってカルテを見直し、ベッドの空きを確認しようと思って歩いていると、何やら医局が騒がしい。

「A先生はいらっしゃらないんですか？」

何やら自分を探している様だ。スクラブを見る限り、心外の医者だろう。PHSも鳴っていないのに、珍しい。どうしたのかと声を掛けようと口を開いた所で、誰かの手に口元を覆われた。目が覚めていなかった、と分かる程に体が一気に目を覚ました。祖父直伝の護身術で構えを取りながら後ろを振り向けば真っ黒いスクラブ。

「わっ…吃驚したな。って、しー！面白くなりそうなんだから。」

『…はい？』

すっかり肩の力が抜けてしまった。それにしても、一体何だと言うのだろう。"面白くなりそう"とはどう言う事なのか、新海先生に聞こうとした時またタイミング悪く二日酔いで機嫌の悪そうな緋山先生が医局に入って来た。

「…おはよ。」

付き合いが短くても分かる。あれは相当機嫌が悪そうだ。きっと二日酔いで頭痛もあって体もだるいのだろう。普段とは違って声が低すぎる。あの藍沢先生ですらそっと避ける程だ。優しい白石先生は苦笑いしながら言葉を選ぶ。

「あー…緊急でしたらPHSで呼んだ方が良いんじゃないですか…ね…」

「あー、まあ緊急って訳でも無いんですけど、暇だったら良いなー程度で。」

"暇"と言うワードに救命スタッフ全員の眉が寄る。救命に暇と言う時間など、ほぼ無い。ヘリが飛んでいなくても、ICUの患者はいつ急変するか分からない。ホットラインがいつ鳴るか分からない。その救命の医者が居る医局でよく"暇"なんてワードを出せたものだ。

バンッ、と大きな音を立ててデスクに物を置いた緋山先生が、大きな溜息を吐いた。

「…あのさ、あたしらアンタみたいに"暇"じゃない訳。カルテ見直して、ICU見回ってんの。他の科にフラフラ遊びに出掛ける時間有る程"暇"じゃない、分かる？ってか心外ってそんな"暇"なの？嗚呼、そっか。ぜーんぶアンタの探してるA先生に任せてるから？ばっかじゃないの、とにかく、緊急の用事でも無いならとっとと帰りな。そこに居られたら邪魔だわ。」

機嫌の悪い緋山先生を怒らせた心外は耳まで顔を真っ赤にして、悔しそうに足を踏み鳴らして帰って行った。

「ね？面白い事になるって言ったでしょ？」

『…で？新海先生は何の御用ですか。』

「はは、緊急じゃないけど藍沢に大事な話さ。」